元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「東京上空いらっしゃいませ」

2013-03-10 06:53:56 | 映画の感想(た行)
 90年作品。本作でデビューした牧瀬里穂の魅力に圧倒される。彼女が中井貴一扮する主人公の部屋を所狭しと飛び跳ねる場面、川越の街を歩き回るシーン、主人公と“影踏み”に興じる場面、ハンバーガー・ショップでバイトする彼女がひどい手さばきでハンバーガーを作る長廻しのショット、すべてが観る者を魅了せずにはおかない輝きに満ちている。特に、彼女が夜のクラブで主人公と歌って踊りまくるシーンは、あたかもスクリーン上に“祭”が出現したようだ。



 大手家電メーカーのキャンペーン・ガールに選ばれたユウ(牧瀬)は、パーティの帰り道、好色な専務(笑福亭鶴瓶)に迫られて逃げようとして、交通事故に遭って死亡する。しかし、あの世に行く途中で死神コウロギ(鶴瓶=二役)をだましたユウは、うまくこの世に復活することに成功。広告会社に勤める文夫(中井)の部屋に転がり込む。ところが鏡には自分の姿が映らないばかりか、彼女の死を知っている人の前に現れると、存在を消されてしまう・・・・。

 このなんともウソくさい話を演出したのが相米慎二である。相米監督といえば一度観たら忘れられないほどの個性的な作風で知られるが、この映画ははエンターテインメント性と自由奔放な映画技法がうまくミックスされた快作である。

 天国から落ちてきたヒロインが、生きることを哀しく断念するという設定だからこそ、ハツラツとした彼女の運動感は「生きる」ことの輝きを観る者に印象づける。屋形舟の上で文夫に自分の心情を告白する彼女のバックには夜空を彩る花火の乱舞・・・・という構図も泣かせる。そして何より、井上陽水の「帰れない二人」が挿入歌として抜群の効果をあげている。

 緊張と抒情が交互に入り交じり、観終わってたまらない“せつなさ”を感じさせるこの映画、惜しくも早々とそのキャリアを終えた相米監督の、後期を代表する作品である。

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