元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ダンス・ウィズ・ウルブズ」

2008-02-10 07:16:54 | 映画の感想(た行)
 (原題:Dances with Wolves)90年作品。1863年、南北戦争で英雄になった北軍中尉ジョン・ダンバーは自ら志願して当時のフロンティアであるサウスダコダの砦に赴任した。荒野のまん中で野生の狼を友として暮らすある日、ダンバーはインディアンのスー族の集落を訪れる。“血に飢えた野蛮人”とされていた彼らの生活はしかし人間らしい優しさに満ちたものだった。インディアンの仲間として迎えられたダンバーは“狼と踊る男”という名前を与えられる。しかし、時代は移り、フロンティアは急速に西部から失われていく。

 製作と主演を兼ねるケヴィン・コスナーが演出も担当。初の監督作であるが、新人監督とはとても思えないほどの堂々とした大作。中盤の映像の説得力は相当なものだ。西部劇につきもののデス・バレー付近の荒涼とした風景を廃し、地平線まで黄金の草が生い茂る大草原をバックに持ってきたことにより、この映画の持つ柔らかさと神秘性が強調される。バッファローの爆走シーンの強烈さ。撮影が実にうまくいっている。さらにジョン・バリーの音楽が盛り上げる。

 この映画の一番の特徴は、アメリカ映画として初めてインディアンを人間として描いている点だ。といっても、それまでインディアンの側から描かれた西部劇がなかったわけではない。「流血の谷」(50年)、「アパッチ」(54年)、そして「ソルジャー・ブルー」(70年)のように騎兵隊のインディアン虐殺を告発した映画もあった。しかし、これほどまで高い人間性と誇りを持つ民族としてスクリーンに登場したのはこれが初めてではなかったか。

 彼らの名前が面白い。“風になびく髪”“蹴る鳥”“十頭の熊”“拳を握って立つ女”etc.どれも深い意味を感じさせる立派な名前だ。いや、“名前”というのは本来そういうものではなかったか。個人を尊重し、一個の人格として認めるという証明としての“名前”。単に他の人と区別するためではなく、本質的な“名前”の意味について考えさせられる。

 人物描写に非凡なものを見せるコスナー監督は、主人公がインディアンたちと仲良くなる過程を、じっくりと誰でも納得できるような手順で胆念に描き出す。役者が伸び伸びと演技しているのは、監督もまた演じる人だからだろう。俳優の活かし方、生理の掴み方を本能的に知っているから出来ることだと思う。

しかし“傑作”と呼ぶには少し抵抗がある。主人公がどうしてフロンティアに魅せられるに至ったか、その過程が説明不足だし、スー族と戦争をするもうひとつのインディアン部族が単なる凶暴な集団としか描かれていないのは不満だ。けれども初監督作品としては目を見張る完成度の高さと、視点のユニークさはじゅうぶん賞賛に値すると思う。アカデミー賞を獲得したのもうなずける。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 最近購入したCD(その13)。 | トップ | 「アメリカン・ギャングスター」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(た行)」カテゴリの最新記事