元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アメリカン・ギャングスター」

2008-02-11 07:36:09 | 映画の感想(あ行)

 (原題:American Gangster )雰囲気はハードな力作といった感じだが、観賞後の印象は薄い。これはひとえに人物描写の食い足らなさに尽きると思う。

 デンゼル・ワシントン扮するハーレムの黒人ギャングはそれまでシシリアン・マフィアの専売特許だった東南アジアからの麻薬ルートを無視し、産地直送の安価でしかも純度の高いドラッグを仕入れて大儲けし、頭角を現す。主役だから出番は多いのは当然として、その反面彼のプロフィール紹介は随分と大雑把である。

 阿漕な荒仕事をこなす一方、家族想いの男としても描かれるが、どうも取って付けたようなモチーフに見える。ギャングの親玉には不釣り合いな、傍目には堅実な生活パターンをキープし、それがまた警察が彼を特定するのに時間が掛かった理由なのだが、それが彼の内面について何か言及しているわけでもない。一見まじめなビジネスマン風で実はマフィアという、よくある二面性の(陳腐な)表現でしかないのだ。

 演じるワシントンがこれまた真性のワルには見えないキャラクターなので、観る側としては不満が募ってくる。だいたい彼がのし上がったのはすでに地盤を築いていた先代のボスの実績を受け継いだに過ぎない。東南アジアとのコネクションもたまたま現地に親戚筋がいて、そいつが闇ルートに通じていたという、まるで御都合主義的な筋書きで進むので鼻白むばかりだ。もうちょっと彼自身の屈託や商売の段取りの苦労談(?)なんかを掘り下げてドラマに奥行きを持たせるべきだった。

 対するラッセル・クロウ演じる刑事も“ヘンに生真面目で、ついでに離婚訴訟中”といった、何だか机上で思いついたような人物設定だ。たとえば捜査に対する病的な執着性やカミさんとのドロドロとした確執を強調し、一筋縄ではいかないキャラクターに仕上げて欲しかったのだが、まるで不発。ハッキリ言ってどうでもいい野郎だ。

 この“影の薄い”二人が何やらバタバタとやり合っても、あまり盛り上がるとは思えない。作者の狙いはベトナム戦争が泥沼化した1970年前後の社会情勢と、片やその“国を挙げての戦い”だったはずの戦争をダシにしてドラッグの取引に利用していた連中がいたという事実を対比して、社会の欺瞞をえぐり出すことだったのかもしれないが、それならそうで脚本をもっと練り上げるべきだった。実録ネタということで、それに過度に寄りかかった感もある。

 リドリー・スコットの演出は力感があるが、予想できる範囲内だ。アクション・シーンが少ないのも残念。ハリス・サビデスのカメラによる、彩度を落とした画調でドキュメンタリー・タッチを狙った映像と堅実なマーク・ストレイテンフェルドの音楽は及第点だが、それだけでは評価する気にはなれない。

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