元・副会長のCinema Days

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「ストレイト・アウタ・コンプトン」

2016-01-08 06:32:48 | 映画の感想(さ行)

 (原題:STRAIGHT OUTTA COMPTON)ミュージシャンの伝記映画としては実に見応えがある(似たような題材のイーストウッドの「ジャージー・ボーイズ」みたいな腑抜けたシャシンとは大違い)。その骨太で正攻法の作劇に感心するとともに、時代性の的確な描出と熱いメッセージに魅了されっぱなしだった。近年のアメリカ映画の収穫であると断言したい。

 80年代半ば、治安の悪さでは全米屈指と言われるカリフォルニア州コンプトンに暮らすイージー・Eは、マリファナの売買を行う一方で、何か世間にアピールするようなことをやりたいと思っていた。やがて音楽好きのアイス・キューブやドクター・ドレーといった仲間を得て、ヒップホップグループ“N.W.A.”を結成。地域で名が売れるようになってきた彼らの才能に、音楽業界のベテラン・ビジネスマンのジェリー・ヘラーが目を付ける。

 彼らはルースレス・レコードを設立し、そのアグレッシヴな音楽性とジェリーの効果的なプロモーションにより、瞬く間にブレークする。しかし、ジェリーの不正経理に端を発したメンバー間の確執により、分裂の危機に見舞われてしまう。

 私はラップやヒップホップといった音楽には関心が無く、この映画を観るまでは“N.W.A.”というグループの存在すら知らなかった(まあ、後に映画関係の仕事も手掛けるアイス・キューブやドクター・ドレーの名ぐらいは知ってはいたが)。しかし、こんな門外漢でも惹き付けてしまうパワーがこの映画にはある。

 まず目を見張るのは、彼らの音楽が決して奇を衒ったり粋がっているようなものではなく、自らの厳しい体験を元に切迫した想いを綴った“本物”であることを活写している点だ。実際、コンプトンに住む者達の生活は理不尽極まりないトラブルの連続だ。黒人であるというだけで警官から意味も無く暴力を振るわれる。この社会の不条理を、彼らは血を吐くように訴える。その感情が爆発するかのようなコンサートの場面は凄い迫力だ。

 やがて仲違いをする各メンバーの葛藤や苦悩も、実に丁寧かつ骨太に描かれていて感心する。F・ゲイリー・グレイの演出は堅牢で、弛緩したところが見当たらず、長い上映時間を一気に見せきっている。そして、映像全体がラップのリズムに呼応するようにグルーヴしているような感触を覚えるのも印象的だ。

 キャストは皆好演だが、特にキューブ役のオシェア・ジャクソン・Jr.の不敵な面構えはインパクトがある。聞けば彼はキューブの実の息子とのことだが、今後は幅広い仕事をこなせそうだ。個人的に80年代の洋楽シーンは“産業ロック”みたいなヤワな音楽ばかりが持て囃されていた“不毛の時期”だと思っていたが、こういう骨のある連中も活躍していたことが分かって、少し見直してみようかという気になった(笑)。

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