元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ロマンスドール」

2020-02-15 06:24:50 | 映画の感想(ら行)
 小綺麗に、肌触り良く仕上げられているが、ドラマにあまり深みは無い。それでも最後まで観ていられたのは、キャストの頑張りに尽きる。ただし、その“頑張っていたキャスト”が主役ではなく脇役の方であったのには違和感を覚えた。そもそも、こういうネタを取り上げるには、この監督で良かったのかという疑問もある。もっとアクの強い演出家が担当すれば、盛り上がったのではないだろうか。

 美大を卒業した北村哲雄は、先輩の紹介でラブドールの制作工場で働き始める。よりアピール度の高い製品を開発するには、生身の女性のバストから“型取り”をすべきだと考えた哲雄とベテラン職人の金次は、美術モデルの園子に“医療用製品のため”と偽って目的を果たすことに成功する。



 ところが哲雄は園子に一目惚れしてしまい、交際が始まる。やがて2人は結婚するが、哲雄は“本職”を妻に告げられないまま数年が過ぎた。哲雄は仕事に没頭するあまり、次第に夫婦仲は冷え切っていく。園子は家出騒動を引き起こした後、抱えていた秘密を夫に打ち明ける。

 冒頭、いきなり2人の“別れ”が描かれ、それから映画は10年前に遡るのだが、最初から結末を開示する意味があったとは思えない。それはドラマ的興趣を削ぐことにならないか。そもそも最初に園子が何も知らずに工場を訪れることは考えにくく、夫の“本業”も知らないまま何年も過ごすというのはあり得ない。さらに言えば、結婚後は当たり前のように専業主婦に落ち着いてしまうのも釈然としない。子供を作ることを話し合う場面も無く、これでは実体感のないママゴトみたいな夫婦生活と言わざるを得ない。

 ラブドールの製作現場では、多かれ少なかれセクシャルなイメージが付きまとうはずだが、意外なほど希薄だ。確かに工業製品の一つには違いないのだが、商品の“用途”の描写に関して及び腰である必要はない。タナダユキの演出はソフトなタッチだが、言い換えれば素材の捉え方が甘いということだ。主人公たちのラブシーンも撮り方がライト感覚で、切迫したものが無い。もっとエゲツない描写を得意とする監督が手掛けたならば、それらしく仕上げられたと思う。

 主演の高橋一生と蒼井優は良くやっていたとは思うが、ドラマの求心力が小さいのであまり成果が上がっていない。反面、金次に扮するきたろうと社長役のピエール瀧は好印象。この2人を主役にして本作の“前日談”を作った方が、より面白かったかもしれない。また浜野謙太に三浦透子、大倉孝二、渡辺えりなど、脇の面子の方が主役よりも目立っている。

 余談だが、劇中でラブドールの“歴史”みたいなものが紹介されていたのは興味深かった。特に素材のシリコンは比重が人体より少し大きいので、小ぶりに作る必要があるというのは面白い。まあ、個人的にはラブドールを購入する予定は無いのだが(大笑)、世の中には知らないことがまたまだあるものだと、大いに感じ入った次第だ。

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