元・副会長のCinema Days

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「ロザリンとライオン」

2023-01-09 06:05:07 | 映画の感想(ら行)
 (原題:ROSELYNE ET LES LIONS )89年作品。2022年に惜しくも世を去ったジャン=ジャック・ベネックスの監督作はいずれも“語る価値のある”映画ばかりだが、本作も素晴らしくヴォルテージが高い。個人的には彼の出世作「ディーバ」(81年)と同格か、それ以上の出来かと思っている。聞けばDVD化もされていないとのことで、これほどの作品が現時点では目にする機会があまり無いのは実に惜しいことだ。

 マルセイユに住む気弱な高校生ティエリーは、ある日動物園の檻の中でライオンに鞭を振う若い娘ロザリンの姿を見て一目惚れしてしまう。何とかして彼女の近くにいられるように、自分も猛獣使いになることを決心した彼は、ロザリンの師匠フラジエに弟子入りすることに成功。しかし職場でのトラブルで2人は動物園を追われ、放浪の旅に出る。その後彼らは苦労の末にドイツの有名サーカス団に採用されるものの、現実は厳しくまだまだ試練は続く。



 年若い主人公たちが鍛練を積んで大舞台で活躍するという、映画のアウトラインは典型的なスポ根路線だ。しかし、実際観てみるとその印象は薄い。平易なストーリー展開よりも、映像の喚起力が半端ではない。エクステリアで観る者を捻じ伏せるタイプのシャシンだ。

 まず、ジャン=フランソワ・ロバンのカメラによる巧妙な画面構成と色使いに感心する。各ショットがそれぞれ一枚の絵のように練り上げられており、また色調の鮮やかさには目を奪われる。猛獣ショーの場面の臨場感は凄く、映画を観る者がまるで至近距離でこのアトラクションに接しているかのようだ。

 そして、ヒロインに扮するイザベル・パスコの存在が光る。半裸に近い格好でライオンと対峙するのだが、エロティシズムよりも野生動物と同等のしなやかさと危うさが横溢する。特に彼女の白い肌に浮かぶ汗にステージのライトが反射して輝くシーンなど、陶然とする美しさだ。ベネックスの演出は主人公たちを助ける英語教師の扱いなどにドラマ運びにおける個性を感じさせるが、おおむねストーリーを進める点では目立ったケレンは無い。ティエリーがメインとなるエピソードでは、静けさが目立つほどだ。その分、ロザリンの猛獣使いとしてのパフォーマンスはこれ以上に無いほどに盛り上げてくる。

 クライマックスは終盤の満員の観衆の前でのショーだが、スリリングなカメラワークとラインハルト・ワグナーによる効果的な音楽で場を高揚させた後、ラストで“背負い投げ的な”大仕掛けを持ってくる。パスコの他にも、ティエリー役のジェラール・サンドスやフィリップ・クレヴノ、ギュンター・マイスナー、ガブリエル・モネといったキャストは万全。いわば“青春スペクタクル映画”の傑作だ。

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