元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「夢魔」

2008-07-24 06:36:36 | 映画の感想(ま行)
 94年作品。往年のにっかつロマン・ポルノがよみがえったような、スキャンダラスで凶々しい魅力にあふれた映画だ。バスの運転手である主人公(田口トモロヲ)は近ごろ同じ夢ばかり見る。子供のころ、いじめられてケガした彼が帰宅すると母はおらず、当時下宿していた若い女(真弓倫子)から手当を受ける。彼女の胸元にタバコを押し当てたような火傷のあとを発見した彼は、薬を塗ってやる。それは子供にとっては大変官能的な体験だが、果たして本当にあったことなのかは定かでない。

 ある日彼はバスの中に置き忘れていた女物のサイフを拾い、入っていた身分証を頼りに持ち主を探して届けに行く。その女・紀子(真弓倫子の二役)も最近同じ夢を見るという。それは胸元の火傷のあとに子供が薬を塗っている夢である。

 映画はどうして二人が同じ夢を見るのか説明しない。そういうことはハナから重要視されていない。それは二人が出会って奈落の底に墜ちていくきっかけでしかないのだ。一見マジメで清純そうな紀子は、昼はOL、夜は売春婦である。そんな生活に対して罪悪感はゼロ。金が欲しいとか淫乱だとかではなく、ただ単に呼吸するようにセックスをしまくる。友人(大西結花)の彼氏とも彼女が紹介してくれた男とも平気で寝る。主人公とも会ってただちに部屋に連れ込んで変態的な行為を迫る。

 感情・理性の一部が完全に欠落したようなこの女の生活は、まさに夢の中にいるように実体感がない。平凡そのものの刺激のない生活に埋没していた主人公も同じように夢の中にいる。この映画は眠っているような日々を送る二人が、夢から覚めるまでを描いた作品、と言っていいのかもしれない。

 ひんぱんに会うようになった二人は、夢の続きを見るようになる。夢と現実の区別がつかない主人公は、残酷な夢の結末を実行するハメになる。女もそれに従うしかない。クライマックスの真夜中のバスの中での惨劇は、人間の持つ妄想の激しさを見事に表現して圧巻だ。そしてそれまでのトーンが一変するラストシーンの驚き。なかなかしたたかな演出である。

 人間味のまったくない千葉・幕張の市街地を巡行するバス、寒色系の画面構成が、登場人物の心情風景を的確にあらわしている。佐々木原保志の撮影が見事。そういえば、この映画の概略は石井隆が描く“村木と名美”のシリーズと似ていないこともない。ただ、当時は袋小路に入った感のあった石井作品より、数段ヴォルテージが高い。

 田口は相変わらずの怪演。映画初出演の真弓の存在感もスゴイ。何といってもエッチだ(笑)。原作は勝目梓。音楽は中国映画「青い凧」も手掛けた大友良英。そして監督はピンク映画出身で「やわらかい生活」や「きみの友だち」など一般映画でも多くのフィルモグラフィを持つ廣木隆一だが、私が今まで観た彼の作品ではこの映画が一番良い。

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