元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハイルミュタンテ! 電撃XX作戦」

2007-09-12 06:41:42 | 映画の感想(は行)
 (原題:Accion Mutante)93年スペイン作品。あまりの過激さに本国では上映禁止とか、各国の映画祭でも上映を断られたとか、威勢のいい(?)評判を聞いていたので、観る前はワクワクだったのだが・・・・。

 舞台は25世紀。美しいものだけが権威を誇る絶対主義の時代。美を嫌悪するテロリスト集団“ミュタンテ”の暗躍が世間を騒がせていた。彼らはフリークスで、ボディビル協会の会長とかフィットネスクラブの支配人などの健康美を自慢する連中をかたっぱしから殺し、金品を奪っていた。今回の“ミュタンテ”のターゲットは、金持ちのきれいな娘を誘拐して莫大な身代金をせしめること。しかし、意外な裏切り者の登場で映画はワケのわからない方向に動き出す。監督はスペインの新鋭アレック・デ・ラ・イグレシア。これがデビュー作である。

 冒頭、一味が富豪の家に押し入って住人を殺し、それがワイド画面のテレビに演出過剰なニュースとなって流れ、ファンキーなロックをバックにしたタイトルになだれ込んでいくまでは凄く面白そうだった。その後の展開に期待が高まったが、なぜかパワーが尻すぼみになってしまう。

 理由は明らかで、このテの映画に不可欠な“哲学”が抜けているからだ。それは“キ○ガイの論理”あるいは“確信犯的強迫観念”と言い直してもいい。美を崇拝する連中の欺瞞をフリークスとしてのアナキズムで木っ端みじんにし、返す刀で観る側の偽善をもうち砕く(書いている方もイマイチよくわからない ^^;)、そんな本質的なアブナさが見当たらない。結局、この一味は金銭欲だけのボスにノセられて何となく集まってきたに過ぎない烏合の衆であり、外見的な面白さとは裏腹に、キャラクターとしての存在感が極めて薄いのはそのためである。

 もっとも、この若い監督はそんな小難しい映画理論(?)はハナから頭にないことは確か。見た目が派手であればそれでよし。製作者ペドロ・アルモドヴァル直伝のキッチュな衣装や舞台装置、「デリカテッセン」のスタッフが担当する、スペイン映画にしては珍しい垢抜けたSFX処理など、表面的にはけっこうにぎやかである。演出テンポも悪くない。でもやっぱり過激さが絶対的に不足なのだ。相手の傷口に塩をすりこむシーンや、女の子の口を釘で密閉する場面など、描きようによってはもっと楽しく(?)できたのに。思想は抜きにして単なるおちゃらけに徹するにしても、アメリカのファレリー兄弟の諸作ぐらいのレベルには達してほしいと思った。
  

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