元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「そして僕は途方に暮れる」

2023-01-28 06:10:27 | 映画の感想(さ行)
 本作に限らず人間のクズを主人公にしたシャシンは少なくないが、この映画はそのクズっぽさが中途半端で煮え切らないことがミソである。しかも、それが作品の瑕疵になっておらず、幾ばくかの共感さえ覚えてしまうあたりが玄妙だ。殊更大きく持ち上げるような映画ではないものの、観て損はしないレベルには仕上げられている。キャストも、ごく一部を除けば好調だ。

 新宿のアパートで恋人の鈴木里美と長年暮らしている菅原裕一は、かつては映画業界を志望していたらしいが、今は自堕落な生活を送るフリーターだ。ある日、浮気がバレて里美に問い詰められた彼は、ロクに話し合うこともなく逃げるように家を飛び出す。親友の今井伸二のマンションに転がり込むが、居候らしからぬ横着な態度が災いして追い出される。



 さらに裕一はバイト先の先輩や学生時代の後輩、姉の香の元を転々し、とうとう母親の住む北海道の苫小牧まで落ち延びる。ところがここでも腰を落ち着けられず、あてもなくさ迷い出たところで出会ったのが、離婚して家を出たはずの父親の浩二だった。三浦大輔の作・演出による同名の舞台劇の映画化で、三浦は監督も手掛けている。

 裕一は典型的なダメ人間だが、他者と向かい合って自らのダメっぷりを認識することも出来ない。そうする前にそそくさと逃げ出す。自分を見つめ直すことが怖くてたまらないのだ。こんな奴を批判することは容易いが、困ったことにこういう“現実を見据えることを避ける”という面は、(程度の差はともかく)誰にでもあったりする。逆にもしも“自分は現実逃避なんかにまったく縁は無い。絶えずリアリティに準拠して生きている”などと公言する奴がいたら、信用できない(笑)。

 そんな“優柔不断なクズ”である裕一が、“真性のクズ”である父親と再会したことを切っ掛けに、思わず自らを省みてしまうという筋書きは、けっこう説得力がある。彼が関係者たちの前で内心をブチまけるシーンは本作のクライマックスと言えるだろうが、それよりも逆境に対して“面白くなってきやがった”と嘯く浩二の開き直りぶりがアッパレだ。

 主役の藤ヶ谷太輔の演技は初めて見るが、憎み切れないクズを上手く表現している。浩二に扮する豊川悦司の怪演、中尾明慶に毎熊克哉、野村周平、香里奈、そして原田美枝子など、キャストは概ね良い仕事をしている。ただし、里美を演じる前田敦子だけは話にならない。彼女はいつになったら演技が上手くなるのだろうか。エンディング曲は大澤誉志幸によるお馴染みのナンバーのセルフカバーだが、出来れば元々のバージョンを流して欲しかった。

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