元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」

2008-08-02 06:56:36 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Away from Her )どうにもパッとしない出来だ。44年間も連れ添った仲の良い老夫婦が、妻のアルツハイマー病発症をきっかけに変化していく様子を追う本作、展開が説明不足でワザとらしい。

 夫は物忘れが目立つようになるという初期症状の段階で早々に妻を施設に入れてしまう。どの病状のレベルでの入院が適当なのかは素人の私には分からないが、その施設には高圧的な主任やら人生投げたような看護婦やらが待ちかまえており、どう考えても妻を任せたくなるような雰囲気ではない。百歩譲って、そこが住居から一番近いという利便性を勘案してのことであっても、なおのこと早期の入所には疑問符が付くではないか。

 妻が施設に入って1か月も面会禁止が続き、やっと旦那が訪れてみると彼女は夫の顔も忘れており、あろうことか患者仲間の男を愛し始めている。別に映画の筋書きとしては病状が進んでそうなっても構わないのだが、なぜその男なのか明確な理由は示されない。セリフで滔々と説明する必要はないとしても、何らかの暗示や伏線は用意すべきではないか。

 主人公の二人には子供がないようだが、それは仕方ないとしても親族さえ出てこないのはどういうことか。それどころか友人や知人さえ顔を見せない。夫は若い頃に随分と女たらしだったことが示され、妻と一緒になったこと自体も必ずしも周囲から祝福されるような状況ではなかったらしいことを匂わせるが、作劇上それで十分とは言い難い。

 妻の“愛人”となった男の家内と懇ろになるくだりにしても図式的で、切迫した感情の発露が感じられない。極めつけはラストシーンで、取って付けたような御都合主義を見せつけられて呆れるばかり。もっとマジメにやってほしい。

 これらの不手際は監督のサラ・ポーリーが20代の若さだということが関係しているのかもしれない。老人問題に対して“自分にはまだ先のこと”だという本音があり、深い洞察を経ないまま頭の中だけで考えた設定をなぞっているだけ。情緒的に流されるのは嫌いなのでシニカルな風味で仕上げてやろう・・・・といった割り切ったスタンスだけが先行し、観る者に感銘を与えようという真剣味は希薄であるように思える。

 本作でオスカー候補になったジュリー・クリスティは年老いた今でも往時の美しさを感じさせるし、オリンピア・デュカキスの貫禄ぶりも見逃せない。しかし、夫役のゴードン・ピンセントの演技はつまらない。まあこれは年若い女流監督らしく、男性キャラクターに対する共感度が足りないためかもしれない。凍てついたカナダの自然風景とジョナサン・ゴールドスミスによる音楽こそ美しいが、ドラマの練り上げが足りないのでそれだけで“観る価値あり”とは言えない。

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