元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「渇水」

2023-07-01 06:48:01 | 映画の感想(か行)
 ピンと来ない映画だ。題材自体は面白いと思う。だが、それが映画的興趣に結び付いていない。キャラクター設定は深みが無く、筋書きは絵空事。何かあると思わせて、実は何も提示出来ないというもどかしさが漂う。聞けば白石和彌が初プロデュースを手掛けた作品とのことだが、この隔靴掻痒感は調子の悪いときの白石監督作にも通じるものがある。

 首都圏の市役所の水道局に勤めている岩切俊作は、後輩の木田拓次と共に水道料金を滞納している世帯を回り、支払いに応じない利用者の水道を停止する業務に就いていた。折しも夏場の雨不足による給水制限が発令され、この仕事はハードさを増すばかり。ある日、岩切たちは訪ねた家で母親から育児放棄された幼い姉妹と出会う。不憫に思った岩切は、何かと彼女たちの様子を見に来るようになる。



 一滴の雨も降らない炎天下の街で停水執行の仕事におこなう主人公と、心の中の潤いも枯渇したような利用者たちとの関係を通じて容赦なく人間性のリアルに迫る話かと思ったら、まったく違った。とにかく、すべてが表面的で生温いのだ。たとえば劇中、くだんの姉妹を見かねた近所の主婦が“児相に連絡しようか”と彼女たちに持ち掛けるが、母親が帰ってくると信じている姉妹は頑なに拒否するという場面がある。これは明らかにおかしい。虐待を通報するのに、当事者たちの承諾など不要である。

 岩切たちも同様で、この姉妹を助ける具体策は持ち合わせずに何となく仲良くしているという案配だ。しかも、岩切は別居している妻子に対する後ろめたさから自らの行為を正当化しているフシもあり、観ていて愉快になれない。終盤近くには岩切は唐突に“思い切った行動”に出てしまうのだが、これは必然性が希薄で、実際に何の解決にもなっていない。

 高橋正弥の演出は平板で、作劇に山も谷も無い。主演の生田斗真をはじめ、門脇麦に磯村勇斗、篠原篤、柴田理恵、田中要次、大鶴義丹、そして尾野真千子と悪くない面子を集めている割にはキャストの実力を発揮させていない。困ったのは子役2人の演技の拙さで、これは本人たちの資質というよりは作り手の演技指導の不徹底が原因だろう。なお、河林満の原作は文學界新人賞を獲得して芥川賞候補にもなっているが(私は未読)、たぶんこの映画化よりもマシな内容なのだろう。機会があれば読んでみたい。
コメント
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