元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アイガー・サンクション」

2022-12-11 06:05:33 | 映画の感想(あ行)
 (原題:The Eiger Sanction)75年作品。クリント・イーストウッドの監督第四作だが、主演も兼ねた彼が当初ドン・シーゲルに監督を要請したものの、断られたので自ら演出も担当したという経緯がある。つまりはシーゲル監督作のような肩の凝らない娯楽路線のシャシンで、彼が監督業に手を染めた頃はこういうテイストの映画を撮っていたのだ。その意味では興味深い。

 登山家で美術教授のジョナサン・ヘムロックは、山小屋風の家で優雅な独身生活を送っているが、実は昔は裏の世界では名の知られた凄腕の殺し屋であった。引退したヒットマンである彼に、ある日CIAから“仕事”の依頼が届く。オファーを渋る彼だったが、美術品を闇ルートから買い入れたことを税務署に通告すると脅され、やむなく引き受ける。ターゲットは近々アイガーに挑戦する国際登山チームの一員で、片足が不自由だという男だが、顔も名前も不明らしい。ヘムロックは登山パーティに参加すべく、かつての登山仲間のベン・ボーマンと共に鍛練を積んだ上でスイスに飛ぶ。



 美術の教員が元殺し屋で、一度は足を洗ったが諸般の事情で荒仕事に戻るという筋書きは、いくら何でも乱暴だ。それを観る側に納得させるほどの作劇的仕掛けも無い。イーストウッドの演出はテンポが良いとは言い難く、中盤などなかなか話が進まない。かと思うと、主人公が旅客機にて移動中に魅力的なCAと知り合ってどうのこうのという、余計なネタが挿入されたりもして盛り下がる。

 まあ、この悠長なタッチは時代を考えると仕方が無いのかもしれない。しかしそれでも退屈せずに観ていられるのは、筋書きがシンプルである点と、何と言っても山岳アクションのスタイルを印象付けるような映像の魅力があるからだ。アイガーでの駆け引きを描く終盤も悪くないのだが、注目すべきはヘムロックがボーマンと一緒にアリゾナで登山訓練を敢行するシークエンスである。おそらく誰も登ったことがない岩山にしがみ付いて、文字通り孤高のクライミングに挑む様子は野趣に富んで見応えがある。

 主演のイーストウッドは“いつもの通り”なのだが(笑)、相棒に扮するジョージ・ケネディがイイ味を出している。一応ヒロイン役のボネッタ・マギーはスクリーンに色を添える程度だが、これはこれで良いだろう。ジャック・キャシディにハイディ・ブリュール、セイヤー・デイヴィッド、ライナー・ショーン、ジャン=ピエール・ベルナールら脇のキャストも悪くない。音楽はジョン・ウィリアムズが担当しているが、今回は無難な仕事ぶりだ。
コメント
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