元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「夜、鳥たちが啼く」

2022-12-23 06:10:05 | 映画の感想(や行)
 佐藤泰志の小説の映画化にしては、極端に暗くも重くもないので“物足りない”と感じるかもしれない。しかしながら、適度な明るさと温度感を伴う方が観る側にとって幾分気が楽であるのは確かだ。ましてや監督は最近登板数が多くプログラム・ピクチュアの担い手のような存在になった城定秀夫だ。いたずらにヘヴィなタッチを期待するのは筋違いである(笑)。

 埼玉県の地方都市(ロケ地は飯能市)に住む作家の慎一は、かつては文学賞を獲得したことがあるが現在は複写機保守の仕事をしながら売れるアテもない小説を細々と書き連ねている。以前は生活を共にしていた恋人の文子がいたが、ケンカ別れした挙句に先輩に寝取られてしまう。そしてあろうことか、文子と一緒になったその先輩の元妻の裕子が幼い息子を連れて慎一のもとに転がり込んでくる。彼は家を母子に提供し、自分は敷地内にあるプレハブ小屋で暮らすようになる。こうして同居とも別居とも言えない奇妙な共同生活が始まる。



 慎一は嫉妬深くて気難しい野郎であり、今後文壇に復帰することはほぼ不可能。裕子は夜な夜な行きずりの男たちとの関係に溺れる身持ちの悪い女である。2人揃って通常のドラマではすぐに消されそうな“陰キャ”の典型だが、なぜか放っておけない存在感がある。それをバックアップするのが裕子の息子のアキラの存在。

 アキラは慎一を呼び捨てにするが、これはすなわち慎一の精神年齢が子供と同等であることを意味する。そんな“子供同士”の慎一とアキラは何となく仲良くなるが(笑)、それが裕子の内面にも微妙な変化をもたらす。もちろん、彼らが少しばかり前向きになろうと、状況は劇的に好転はしない。だが、そういう生き方も決して否定されるものではないのだ。

 城定の演出は淡々としていながら無駄がなく、適度なユーモアも交えつつ(特に“だるまさんがころんだ”の場面はケッ作)スムーズにドラマを進めていく。主演の山田裕貴はかなり健闘していて、この半ば人生投げたような男をリアリティをもって表現している。ヒロイン役の松本まりかはスクリーン上で見るのは初めてだが、巷の“あざと可愛い”という評価通りのヤバそうなオーラが満載。今後もこの個性を突き詰めてほしい。中村ゆりかにカトウシンスケ、藤田朋子、宇野祥平などの脇の面子も悪くなく、観て損しないだけの要素は確保されている。
コメント
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