元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「BLUE/ブルー」

2021-05-01 06:24:01 | 映画の感想(英数)
 登場人物の掘り下げが浅く、ストーリーも迷走した挙げ句に尻切れトンボで何も解決しない。すべてにおいて、中途半端な映画だ。オリジナル脚本で勝負しようとした姿勢は良いとして、それを練り上げるように指示するのが製作陣の仕事だが、今回は何もやらなかったように見える。

 下町のボクシングジムに所属する瓜田信人は、競技に対して熱い思い入れを持つが、どんなに努力しても勝てずにいた。彼の後輩の小川一樹は瓜生に勧められてボクシングを始めたが、才能豊かで連戦連勝。ついには日本チャンピオンに挑戦出来る地位まで上り詰める。かつて瓜生の恋人であった千佳は、今では小川の婚約者だ。

 一方、ゲームセンターで働く楢崎剛は、そのオドオドした態度で周囲からナメられていた。それでも同僚の女子の気を惹こうと、一念発起して瓜生たちのいるジムに入会する。最初は及び腰だった楢崎だが、練習を続けるうちに意外とセンスがあることが分かり、次第にボクシングにのめり込んでゆく。

 瓜生はボクシングが生き甲斐になっていることは分かるが、その理由は示されない。もちろんセリフで何もかも説明する必要はないが、暗示的なモチーフを用いることも可能だったはずだ。瓜生は勝つ公算も無いのにリングに立ち続け、恋人を寝取られても文句も言わない。小川は実は重大な身体的疾患を抱えていて、すでに日常生活に支障が出ている。もちろん試合なんて論外なのだが、誰も強く止めようとしない。

 楢崎は両親を亡くし、認知症が始まった祖母と二人暮らしだが、そこから何か物語が展開するわけでもない。千佳は瓜生を捨てて小川の元に走ったことに対し、何の痛痒も覚えていないようだ。つまりはどのキャラクターも絵空事で、そんな連中がスクリーン上をウロウロしても映画的興趣が喚起されるはずもない。

 映画は各登場人物の顛末を描くことなく、ストーリーが放り出された状態で終わる。脚本も担当した吉田恵輔の演出は粘りが足りず、肝心のボクシング場面も“普通”のレベルで推移。松山ケンイチに木村文乃、柄本時生と役者は揃っているが役柄の造型が不完全なので持ち味を出し切れていない。

 さらに小川役の東出昌大の大根ぶりが映画を盛り下げる。この男がどうして演技が出来ないのに、しかもあれだけのスキャンダルを経た後もオファーが絶えないのか、まさしく邦画界の七不思議の一つとして数えられるだろう(あとの六つは知らないけれど ^^;)。
コメント
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