元・副会長のCinema Days

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「アメリカの友人」

2021-05-28 06:17:18 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Der amerikanische Freund)77年西ドイツ=フランス合作。ヴィム・ヴェンダース監督が31歳の時に撮った長編で、この頃の同監督は才気煥発であり、作る作品はどれも気合いが入っていた(昨今の彼とは大違い)。本作もキレの良い犯罪ドラマに仕上がっており、しかも深みがある。鑑賞後の満足度は高い。

 ハンブルグにやってきたアメリカ人の詐欺師トム・リプリーは、贋作の絵画を不当に売りさばいて利益を得ていた。彼はミノという怪しい男から、邪魔な人間を消すことを強要される。トムはオークション会場で額縁職人のヨナタンと知り合うが、ヨナタンは白血病で余命幾ばくも無いことを聞きつけたトムは、彼を殺人にはめ込むことを思い付く。

 多額の“前払い金”を受け取ったヨナタンは、ターゲットの男を射殺する。ところがこの“成功例”を聞きつけたミノは、ヨナタンに再び殺しの依頼をする。ヨナタンと懇意になっていたトムは、何とかそれを阻止しようと、殺しの“現場”に乗り込んでくる。パトリシア・ハイスミスによる「トム・リプリー」シリーズの一作の映画化だ。

 とにかく、トムとヨナタンの切迫した友情の描き方に圧倒される。それは一般的に言われる友情の概念から完全に逸脱しており、虚々実々の駆け引きの上にかろうじて成立しているような危うい関係性だ。何しろ、贋作の絵を売りとばすトムが差し出した握手を、ヨナタンが拒否したことから2人のやり取りが始まるのだ。おそらくヨナタンが長くは生きられないという事実が無ければ、最初からトムは彼に近付かないだろう。

 トムはカセットテープに“私は誰、ここはどこ?”といった虚無的な自問を繰り返し吹き込んでいるような男で、この一瞬を生きるしかないヨナタンこそが、自身の心の隙間を埋めてくれる存在だと勝手に合点する。そんな2人が惹かれ合い、でもやはり互いに別の世界に生きていることを再認識するまでの、波瀾万丈のドラマである。

 ヴェンダースの演出は淀みがなく、サスペンスの醸成には目を見張るものがある。それをバックアップするのが、ロビー・ミュラーのカメラによる独特の色彩だ。ヨナタンの息子ダニエルのレインコートの黄色や車のオレンジ色、赤一色のトムの部屋なども印象的だったが、特に効果的なのが街角のブルーがかった風景だ。それも明るさを廃した深い青で、作品のカラーと合致している。

 主演のデニス・ホッパーとブルーノ・ガンツのパフォーマンスは見事。リサ・クロイツァーやジェラール・ブランといった脇の面子も良い。また、ニコラス・レイやサミュエル・フラー、ダニエル・シュミットといったヴェンダースの“同業者”たちが顔を揃えているところも見逃せない。
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