元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「水を抱く女」

2021-05-23 06:21:47 | 映画の感想(ま行)
 (原題:UNDINE)世評が高いので期待して観てみたが、どうにもピンと来ないシャシンだ。要するにこれは、私の苦手とするファンタジー映画である。だからストーリーもキャラクター設定もそれに呼応するように一貫性が無く、ドラマとして説得力に欠ける。雰囲気だけで何とか保たせようとしているが、個人的にはノーサンキューだ。

 ベルリンの博物館に勤務する学術委員のウンディーネは、ある日突然恋人のヨハネスから別れを切り出される。悲しみをこらえて仕事に臨む彼女だが、潜水作業員のクリストフとひょんなことから知り合う。彼は優しく、ウンディーヌもすぐに好意を抱く。ところが、クリストフと一緒に町を歩いていた彼女は偶然にヨハネスとすれ違い、動揺する。そしてヨハネスはあろうことか復縁を迫るのであった。そんな中、クリストフが勤務中に重大な事故に遭う。



 ヨーロッパに古くから伝わる水の精霊ウンディーネの神話を下敷きにしているらしいが、本作にはスピリチュアルなテイストは表面上は希薄だ。単なるラブストーリーのように見えるが、ヘンなところにオカルトじみたモチーフが挿入されるのが実に場違いだ。ケガして寝込んでいるはずのクリストフがウンディーネに電話を掛けてきたり、ヨハネスに対して唐突なオトシマエを付けたりと、おかしな筋書きが堂々と展開されている。

 ついでに言えば、ヒロインが超現実的な振る舞いをするのは終盤になってからで、その前には何の伏線も暗示もほとんど無い。斯様に脈絡に欠ける点が、ファンタジー映画の特徴であろう。クリスティアン・ペッツォルトの演出は以前の「東ベルリンから来た女」(2012年)同様、要領を得ない。しかしながら水中シーンは良く出来ているし、バックに流れるマルチェッロのオーボエ協奏曲(バッハによるチェンバロ編曲版)はけっこう効果的だ。

 そして博物館で見学客に対しておこなわれる、ベルリンの町の成り立ちについてのレクチャーはタメになった。その意味では、観る価値は全然無いとは言えない。主演のパウラ・ベーアは良くやっており、フランツ・ロゴフスキやマリアム・ザリー、ヤコブ・マッチェンツといった他の面子も悪くない。だが、映画の中身が低調なので高評価は差し控える。
コメント
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