元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「パラサイト 半地下の家族」

2020-01-20 06:43:27 | 映画の感想(は行)

 (英題:PARASITE)評判通りの面白さだ。もっとも、万全の出来ではなく脚本にはけっこう瑕疵がある。また、過去の諸作との類似性も見逃せない。それでも、全編にみなぎる作劇の求心力と、高い問題意識が観る者をとらえて放さない。第72回カンヌ国際映画祭にて大賞を獲得しているが、久々に納得ずくの選出であったと思う。

 陽があまり当たらず電波もロクに入らない半地下住宅で暮らすキム・ギテクは、過去にあれこれ事業に手を出したが全て上手くいかず、今ではこの体たらく。妻のチュンスクは元ハンマー投げの名選手だが、ギテクと一緒になったばかりに貧乏暮らしに甘んじている。息子のギウは大学受験に落ち続け、娘のギジョンは美大を目指すが予備校に通う金もない。ある日、ギウの友人で一流大学に通うミニョクが、留学する間、ギウに家庭教師の代打を依頼する。引き受けたギウが向かったのは大手IT企業の社長宅で、高台に建つ豪邸だった。

 早速ギウは社長の娘の勉強を手伝うが、これが評判になって彼は一家の心を掴む。次に彼は末息子のしつけ役にギジョンを、運転手としてギテクを、家政婦としてチュンスクを、それぞれ身分を偽って社長の家に送り込むことに成功。こうしてキム一家の暮らしぶりは格段に楽になるのだが、実はこの邸宅には誰も知らなかった秘密があり、そのことが彼らを思わぬ事件に巻き込んでゆく。

 後半の、キム一家の正体が社長たちに見破られるか否かというドタバタは、段取りが上手くいっていない。クライマックスの大立ち回りも無理筋だし、終盤の処理は明らかに既視感がある(具体的にどの映画に似ているかを明かすとネタばれになるので、やめておこう ^^;)。だが見終わってしまえばそれらの欠点に目を瞑りたくなるほど、本作のヴォルテージは高い。

 キム一家は各人特技を持っていて、これで貧困に喘いでいるのはおかしいとの指摘もあろうが、言い換えればそんな彼らでも学歴と出自に恵まれなければ決して這い上がれないという社会の不条理を示しているのだ。

 極めつけは、社長一家がキムたちに共通の“臭い”を感じる取るとこだろう。別に悪臭を放っているわけではなく、ちゃんと入浴はしている。それでも、富裕層は自分たちとは違う下流の者どもに愉快ならざるモノを覚えてしまうのだ(有り体に言えば、それは“貧乏臭さ”である)。しかも、社長一家には自覚が無いだけに、余計に始末が悪い。そして、全編を覆う“北からの脅威”めいたものが、韓国社会に漂う暗鬱な空気を象徴している。

 ポン・ジュノ監督の作品をこれまで全て観たわけではないが、本作では最良の仕事をしていると思う。前半のスラップスティック風味から、中盤以降のホラーやバイオレンス満載のパートに移行する呼吸は鮮やかだし、演出のテンポも良い。ギテク役のソン・ガンホは相変わらずの横綱相撲で安定感があるし、チャン・ヘジンやパク・ソダム、チェ・ウシク、イ・ソンギュン、チョン・ジソ等々、皆芸達者だ。ホン・ギョンピョによる撮影やチョン・ジェイルの音楽も言うこと無し。好き嫌いが分かれる内容かもしれないが、見応えはあると言えよう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする