元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ビリィ・ザ・キッドの新しい夜明け」

2020-01-27 06:36:53 | 映画の感想(は行)

 86年作品。途轍もなくいい加減な設定と、人を食ったストーリー、そしてデタラメなキャラクターの跳梁跋扈と、普通に考えれば駄作あるいは失敗作にしかならないエクステリアを持つ映画ながら、実際観たら面白い。思い付きのような絵空事をエンタテインメントとして昇華してしまう才能と、それを支える優秀スタッフとキャストが揃えば、単なる“怪作”も“快作”へと変化してしまうものなのだ。

 モニュメントバレーで馬に逃げられたビリィ・ザ・キッドは、当て所なく歩いていた。すると、いつの間にか居酒屋“スローターハウス”にたどり着く。マスターの一人娘テイタムに一目惚れした彼は、そこでウェイターとしてしばらく働くことになった。

 彼のほかに“スローターハウス”には剣豪の宮本武蔵をはじめ、サンダース軍曹、詩人の中島みゆき、エスパーの104、合体人間マルクス・エンゲルスといったプロフェッショナルが従業員として勤務していた。彼らはギャングたちから店を守る用心棒でもあったのだ。ギャングは客に成りすまして入店するらしい。ロックバンド、ゼルダのライヴコンサートが始まった日、ギャングどもは一斉に正体をあらわし、ビリィたちと大々的なバトルを展開する。原案は小説家の高橋源一郎。

 冒頭および最後のモニュメントバレーのシーンは現地ロケだが、それ以外はすべてスタジオ内のワンセットで展開される。そのため演劇的色彩が強くなり、あり得ないキャラクター設定も気にならない。

 監督は早稲田大シネ研出身で自主映画界の俊英と呼ばれた山川直人だが、彼の演出スタイルは良い意味で“ゆるい”。オフビートな御膳立てを糊塗するために矢継ぎ早にシークエンスを繰り出すというマネはしておらず、まさに泰然自若でマイペース。それがサマになっているだけではなく、終盤の活劇場面とのコントラストを引き立たせる。過去の諸作品からの引用が散りばめられており、特に「七人の侍」のパロディが印象的。

 ビリィ役は三上博史だが、他に真行寺君枝や室井滋、石橋蓮司、内藤剛志、原田芳雄、細川俊之、小倉久寛、徳井優、有薗芳記などが顔を揃え、キャストは場違いなほど豪華。さらに原作者の高橋をはじめ日比野克彦や鮎川誠、栗本慎一郎といったサブカル枠(のようなもの)も設けられている。

 高間賢治のカメラによる映像美も冴えわたり、少なくとも“異世界の酒場”(?)を舞台にしたシャシンとしては先日観た「Diner ダイナー」よりも楽しめた。千野秀一による音楽は悪くないが、それよりもゼルダによるエンディング・テーマ曲「黄金の時間」が目覚ましい効果を上げている。
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