元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「フォードvsフェラーリ」

2020-01-18 06:44:25 | 映画の感想(あ行)
 (原題:FORD V FERRARI)主要キャストは好演だが、ドラマ自体はさほど盛り上がらない。原因は、物語が文字通り“盛り上がらない方向”から進められていること、そして重要なモチーフが欠落していることだ。特にこのような映画は題材の細部にまで切り込むことが不可欠であるはずだが、そのあたりがどうも心許ない。

 1963年、フォード自動車はモータースポーツに本格参入するため、イタリアのフェラーリに買収を持ちかけるが失敗。社長のヘンリー・フォード2世は激怒し、当時最強と言われたフェラーリチームを打ち負かすため、レース部門を設立して膨大な資金を投入するが、なかなか結果が出ない。そこでレース経験が豊富なキャロル・シェルビー率いるチームに協力を要請。キャロルはその条件として天才肌のイギリス人レーサーであるケン・マイルズの参加を提案する。だが、フォード首脳部は難色を示し、それ以来キャロルと会社幹部との摩擦は頻発するようになる。



 要するに、当時世界有数の大企業であったフォードが、金の力にモノを言わせて並み居るライバルをねじ伏せたという話だ。もちろん、ただ金を積むだけではこの世界での成功は覚束ない。しかし、資金力は無いよりあった方が断然良い。これはどう考えてもフォードの側の事情を取り上げるよりも、倒産寸前になりながらもレースへの情熱を持ち続けたフェラーリと、それをあえて傘下に置いたフィアットをメインに描いた方が訴求力が高くなったと思うのだが、アメリカ映画である以上、仕方が無いだろう。

 ストーリーはキャロル達とフォードのお偉方との確執を前面に出しているが、レースを題材にするからにはもっと別に描き込むことがあったのではないか。それは、どうしてフォードはフェラーリと拮抗し得たのかを理詰めに提示することだ。つまり、メカに対する言及がまるで足りていない。確かに、技術的なウンチクばかりを並べてしまうと観客は置いて行かれる。だが、観る者をドン引きさせない程度にメカニズムの説明を適当に織り込むことは出来たはずだ。それをやっていないから、話自体が(実録物なのに)絵空事になってしまう。

 ジェームズ・マンゴールドの演出は可も無く不可も無し。ただし、レース場面は迫力が足りない。少なくとも「ラッシュ プライドと友情」や「ミシェル・ヴァイヨン」などには完全に負けている。主演のマット・デイモンとクリスチャン・ベールのパフォーマンスは良好で、キャロルの妻を演じるカトリーナ・バルフも魅力的なのだが、映画自体が要領を得ない出来であるため、彼らの奮闘もあまり報われないものになっている。
コメント
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