元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「昭和残侠伝」

2020-01-04 07:55:15 | 映画の感想(さ行)
 昭和40年東映作品。高倉健の代表作として人気を得たシリーズの第一作である。いかにもプログラム・ピクチュアといったルーティンを採用しており、筋書きもキャラクター設定も型通りである。だが、それが決して悪いということではない。この時代はこういうシャシンが必要とされていたのだ。空いた時間にフラリと映画館に入った客は、小難しい講釈や作家性の発露なんて求めていなかった。そして今観てもその“様式美”は十分に鑑賞に耐えうるパワーがある。

 戦後すぐの浅草。戦前からこの界隈を仕切っていた昔気質のヤクザである神津組は、兵隊に取られた組員の多くが帰還せず、人手不足に喘いでいた。その隙を突いて台頭してきたのが、新興のヤクザ集団である新誠会だった。新誠会の遣り口は非道そのもので、浅草露天商から法外なショバ代を巻き上げ、逆らう者は容赦なく粛正してゆく。警察の忠告も無視し、神津組の親分である源之助まで亡きものにする。



 そんな中、神津組の有力メンバーだった寺島清次が復員してくる。清次は組を継ぐ決心を固め、露天商たちを結束させ新たなマーケットを作るため奔走するが、それを面白く思わない新誠会は露骨な妨害工作を仕掛け、清次の友人たちも災難に遭う。堪忍袋の緒が切れた清次は、客人の風間重吉と共に新誠会のアジトに殴り込みを掛ける。

 清次と池部良扮する重吉が軒下で仁義を切るシーンは往年の任侠映画での“お約束”だが、2人のセリフ回しと身のこなしは古さを感じないばかりか、凛とした美しさまで醸し出している。筋書きは“我慢に我慢を重ねた主人公が、終盤に憤怒を爆発させて悪者どもをやっつける”という勧善懲悪の定型を踏襲しており、何ら意外性は無い。だが、その構図はすこぶる普遍性が高く、誰が観ても納得出来るのだ。

 加えて、出てくる俳優はすべてスクリーン上で映える面子ばかり。高倉や池部をはじめ、梅宮辰夫に松方弘樹、水島道太郎、菅原謙二、中山昭二、室田日出男等々、皆すでに鬼籍に入ってしまったが、彼らが出てくるだけで画面が華やいでくる。また、ヒロインを演じる若い頃の三田佳子は美しい。佐伯清の演出は才気走ったところは無いが、堅実にドラマを進めており活劇場面もソツなくこなす。高倉自身による主題歌も印象的だ。
コメント
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