元・副会長のCinema Days

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「BPM ビート・パー・ミニット」

2018-04-16 06:44:33 | 映画の感想(英数)

 (原題:120 BATTEMENTS PAR MINUTE )切迫感が横溢し、スクリーンから目が離せない。かなりセンセーショナルな場面もあり、確実に観る者を選ぶ映画ながら、その強力な社会的メッセージ性には圧倒される思いがする。それでいて甘酸っぱい青春映画のテイストも併せ持っている。本年度のヨーロッパ映画を代表する力作だ。

 90年代初頭のパリ。過激な抗議活動を繰り返していた“ACT UP PARIS”は、AIDS罹患者のメンバーを中心とした直接行動組織である。ターゲットは差別を放置する政府や自治体、そして真摯な態度を見せない製薬会社などだ。新たに参加したナタンは、HIV陰性ながら、会の趣旨に賛同して積極的に活動に加わるようになる。

 “ACT UP PARIS”が高校でゲリラ的なデモを敢行していた際に、彼らは学校当局者から差別的な言葉を投げかけられるが、その腹いせに相手の面前でナタンと若いメンバーのショーンはキスをする。それを契機に2人は恋仲になるが、ショーンはHIV感染者であり、余命幾ばくもない。相変わらず製薬会社の対応は遅く、有効な治療薬は市場に出ない。そして2人に別れの時がやってくる。監督・脚本担当のロバン・カンピヨは、かつて実際に“ACT UP PARIS”のメンバーであり、自身の体験を元に本作のシナリオを書き上げている。

 まず、前半のドキュメンタリー・タッチの作劇に目を奪われる。緊迫感あふれるディスカッションの場面、さらに“ACT UP PARIS”の過激なパフォーマンスをカメラは粘り強く追う。製薬会社のオフィスや専門家のレクチャー会場に乱入し、人工の血糊を投げつける。そして許可なく学校に侵入し、コンドームを配る。

 まさにやりたい放題だが、嫌悪感は覚えない。なぜなら当時は、AIDSの感染は広がるばかりで、効果的な対策どころか正しい知識を持つ者も少なかったのだ。残りの人生が短くなる中、追い詰められた彼らの言動は、それが常軌を逸したものであるほど悲壮感がみなぎっている。一方、街中でのパレードやクラブでのダンスは逆境に追い込まれても何とか生きる楽しみを見出そうとする、開き直った明るさが全面展開されていて圧巻だ。

 後半は打って変わってナタンとショーンとの関係がじっくりと描かれるが、これは観る者の紅涙を絞り出すほどの普遍的な“悲恋”として扱われている。この構成も申し分ない。カンピヨの演出は赤裸々なゲイ・セックス場面も織り込みつつ、一点のぶれも迷いもなく、テーマを追求する。また“引き”の場面を抑えてクローズアップを多用しているのも、作者の覚悟を感じさせる。

 ナウエル・ペレーズ・ビスカヤートやアーノード・バロワ、アデル・エネルといったキャストは馴染みがないが、皆いい演技だ。HIVキャリアに対する偏見が小さくなった現代、だがこの“虐げられるマイノリティVS無理解な世間”という図式は、世界のあちこちに存在し続けている。
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