元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミフネ」

2018-04-22 06:25:23 | 映画の感想(ま行)

 (原題:Mifunes Sidste Sang )98年デンマーク作品。別にどうということもない映画だ。しかし、それが別に悪いということでもない。平板な映画には時として“これ見よがしの展開が無いから安心できる”といった楽しみ方もあるのだと思う。

 コペンハーゲンに住む、向上心の強い男クレステンは、努力の末に勤務先の社長令嬢クレアとの結婚に漕ぎ着ける。だが直後に、絶縁していた父親が急逝したという知らせを受けた。とりあえず新妻を残して田舎の農村に帰郷した彼は、知的障害を抱えた兄ルードと再会した。兄弟は子供の頃、よく黒澤明の「七人の侍」の三船敏郎の真似をして遊んでいたが、今ではクレステンにとって、それはどうでもいいことに過ぎない。

 クレステンは兄を預ける施設を探すまでメイドのリーバを雇う。傍目には堅気に映るリーバだが、実は高級娼婦で、ストーカーに悩まされていたために都会から逃げてきたのだ。兄弟は間もなく彼女と仲良くなるが、そこに彼女の弟である不良少年のビアーケが転がり込んてくる。こうして成り行きで4人は疑似家族みたいな関係になるが、コペンハーゲンで一人留守番を強いられていたクレアが怒って押しかけてくる。

 本作は、ロケーション撮影オンリーで映像効果も配するという“ドグマ95”のストイックな様式を踏襲している。ならばスノッブで取っ付きにくい映画なのかというと、それは違う。ここでは“ドグマ95”の手法は、より自然なタッチで物語を綴る手段として機能しており、メソッド自体が表に出て来ることはない。それはまた日常生活を大きく逸脱する事物が出てこないという、手堅さにも通じている。

 ソーレン・クラウ・ヤコブセンの演出は外連味は皆無だが、その分登場人物たちが心を通わせていく過程を地道に追っていて好感が持てる。特筆すべきは映像の美しさで(撮影:アンソニー・ダット・マンテル)、夜がほとんどない北欧の夏の描写には目覚ましいものがある。クレステン役のアナス・ベアデルセンをはじめイーベン・ヤイレ、イエスバー・アスホルトといった顔触れには馴染みがないが、皆いい演技をしている。

 また、ルードに扮したアスホルトの“三船敏郎の真似”はなかなか達者だ(笑)。いずれにしろ、邦画の代表作が(真面目に)ネタとして使われているのは嬉しい。
コメント
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