元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ジェラシー」

2014-11-21 06:27:52 | 映画の感想(さ行)

 (原題:LA JALOUSIE )独特の雰囲気は捨てがたいが、逆に言えば“雰囲気だけ”で終わっている映画で、あまり面白くはない。作品の空気感の醸造なんてものは、描くべきものを描いてからやってほしいものだ。

 舞台俳優のルイは妻と娘と暮らしていたが、まとまった仕事にはありつけず、実質的にカミさんに養ってもらっている状態だ。ある日、彼は浮気相手である俳優仲間のクローディアと暮らすため、家を出る。しかし、女優としては限界を感じてカタギの仕事に就こうと思っているクローディアは、夢を語るばかりのルイに愛想を尽かして、何かと彼女の面倒を見てくれる建築家の男になびいてしまう。傷付いたルイは自殺未遂騒ぎまで起こすが、それでも事態は変わらない。

 フィリップ・ガレル監督の作品を見るのは初めてだが、彼は“ヌーヴェルヴァーグ次世代の旗手”として知られているそうだ。なるほど、過去のヌーヴェルヴァーグの諸作に通じるモチーフはふんだんに出てくる。主人公は典型的な芸術肌のパリジャンで、彼の言動は過度に主観的に捉えられ、勝手に無軌道に振る舞い、勝手に悩んで追い込まれていく。

 ところが、そのヌーヴェルヴァーグっぽいエクステリアを取り去ってしまえば、何とも中身の無い展開に終始している。各登場人物の内面がほとんど明示も暗示もされておらず、具体的に誰の誰に対する“ジェラシー”をメインに扱いたいのか分からない。上映時間は77分と短いが、これはストイックに尺を削ったということではなく、単にそれ以上描けるものが無かったから打ち切ったというのが実状だろう。

 主演のルイ・ガレルは監督の息子であり、監督の妻であるキャロリーヌ・ドリュアス=ガレルが脚本に参加しているというから、作者の自伝的要素も入っているらしい本作は、意地悪な見方をすれば“若い頃はこんなにも無頼を気取っていたものだ”という送り手の鼻持ちならない言い分を家族ぐるみでトレースしただけのシャシンであるとも言える。

 とはいえ、ウィリー・クラントのカメラによるモノクロ映像は大層美しい。また、画面の構図もスタイリッシュで、そのあたりは観て損は無い。またクローディアに扮するアナ・ムグラリスは魅力的だし、主人公の娘を演じる子役のオルガ・ミルシュタインがとても可愛い。ジェン=ルイ・オベールによる洗練されたスコアも要チェックだ。
コメント
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