元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」

2014-11-15 07:47:11 | 映画の感想(さ行)

 大して期待していなかったが、意外にも楽しめた。序盤こそライトなテレビドラマのような雰囲気だが、映画が進むに連れて次第に作者が訴えようとしているテーマが浮き彫りになり、ラスト近くには何と感銘さえ覚えてしまった(笑)。観て損はない佳作だ。

 親に内緒で青森から東京に出てきた海空(ミク)は、偶然テレビで見たモデル兼ヨガ・インストラクターの空美(クミ)の美しい容姿と優雅な身のこなしに魅了されてしまう。早速彼女が講師を務めるヨガ教室に通い始める海空だが、それだけでは飽き足らず、ストーカー的に空美を追い回すようになる。

 図々しい海空を鬱陶しく思っていた空美だったが、純粋で一途な海空の素顔を知り、男にだまされて無一文になった彼女を自宅に居候させることにする。そんな中、空美は男友達との関係が上手くいかなくなったことを切っ掛けに、順調だと思われていたモデルの仕事も行き詰まり、ドミノ倒し的に逆境に追いやられることになる。

 要するに“人生、ポジティヴに向き合えば何とかなる”という処世訓に収斂されるような主題なのだが、本作はその重要な小道具としてヨガが取り上げられているところが興味深い。

 ヨガは単なる健康法やエクササイズではなく、心身を解き放つ“修行”としての側面が大きい。誰しも前向きなスタンスの重要性は頭では分かっていても、それを実践することは難しい。だからこそ、やり遂げたときの達成感は大きいのだが、映画の中でそれを正面から説くとすると、込み入った手練手管を弄する必要がある(しかも、成功するとは限らない)。

 対してこの映画は、ヨガという“存在そのものがポジティヴ”なモチーフを挿入することにより、作劇が実にスムーズに展開する。登場人物達はいくら困難にぶち当たっても、ヨガにより心の声を聞き、平常心を取り戻すことが出来る。さらに本作は、人間の心というのは元々ポジティヴな性質を持っていて、絶望や苦悩といったものはイレギュラーなものであると喝破しているかのようで、このあたりは得点が高い。

 監督の永田琴の仕事を見るのは初めてだが、演出リズムは平易でバランスが良い。海空を演じる門脇麦の存在感は圧倒的で、嫌味になる一歩手前で奔放なヒロイン像を表現する実力には感服してしまう。空美に扮するのは映画初出演の道端ジェシカだが、頑張ってはいるものの演技が硬い。まあ、容姿を買われて起用されたと思えば文句は無いだろう(個人的にはモデル仲間を演じる石田ニコルの方が好みだ ^^;)。

 ゲイのバーテンダーを演じる村上淳や空美に助言する初老の男に扮した螢雪次朗といった、脇の面子も手堅い。それにしても、エンドタイトル前に5分間の“瞑想の時間”が設定されていたのには面食らった(笑)。まあ、映画を観た後で深呼吸して心を落ち着かせるのも、たまには良いものだ。
コメント
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