元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「幻肢」

2014-11-19 05:56:08 | 映画の感想(か行)

 お手軽なホラー・サスペンス編だが、キャラクター設定にはいくらか興味を覚える。出来は平凡でも、観る側が少しでも共感出来るモチーフがあれば、けっこう忘れがたい映画になるものだ。

 運転していた車の転落事故で重傷を負った医大生の雅人が昏睡状態から目覚めてみると、彼は事故当日のことを全く覚えていない。どうやら同乗していたのは恋人の遙らしいのだが、彼女に関する記憶も丸ごと欠落している。友人の亀井に勧められ、雅人は彼自身が研究していたという、脳に磁気刺激を与えるTMS治療を試すことにするが、その直後から彼の前に遥の幻が出現するようになる。その幻に励まされて次第に雅人は元気を取り戻していくが、同時に明らかになっていく事故の真相は、彼のアイデンティティを揺るがすような忌まわしいものであった。

 タイトルの幻肢というのは、手足などの身体の大切な部分が欠けてしまうと、脳はまだそれがあるかのような幻覚を作り上げることであるが、この映画の内容にそれほど関係しているとは思えない。大切な人を失って、それを受け入れられない防御本能がリアルなイメージ(幽霊)を喚起させるのも“幻肢の一種だ”と言いたいらしいが、何やらこじつけ臭い。まあこれは島田荘司による原作(私は未読である)がそうなっているのだから仕方がないが、違和感を覚えるのは確かだ。

 この事故は実は雅人が遥を亡きものにしようと図った殺人なのか、あるいは無理心中未遂なのか、それとも別の事情があったのか等、いろいろな憶測を呼ぶ。しかし、いずれにせよクローズアップされるのは、雅人の底無しのヘタレぶりだ。交際相手の一挙手一投足に過剰に反応し、勝手に疑心暗鬼に陥り、同時に自己嫌悪に浸る。そのため勉学にも身が入らない。まったくどうしようもない奴だが、困ったことにこれが説得力を持ってしまうのだ(大笑)。

 実を言えば、私の若い頃も似たようなものだった。優柔不断で、自分一人でウジウジ悩み、それでいて根拠の無いプライドにしがみついて虚勢を張ったりする。この主人公を見ていると、そんなかつての自分を投影してしまい、思わず苦笑してしまった。

 演じる吉木遼はそれほど上手くはないが、根性無しの雰囲気を良く出していたと思う。藤井道人の演出は映像処理に凝ったところを見せるものの、取り立てて光る箇所は無く平板に流れる感じだ。遥に扮する谷村美月はさすがに演技は達者で、平凡さと神秘性を両立させたキャラクター創出に貢献していた。

 遠藤雄弥や宮川一朗太といった脇の面子も悪くない。あと佐野史郎が教授役で出てくるが、“何かある”と思わせて肩すかしを食らわせるあたりは笑ってしまった。
コメント
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