元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「青天の霹靂」

2014-06-19 06:16:28 | 映画の感想(さ行)

 丁寧に撮られているが、作劇やキャラクター設定に釈然としないものが残るのは、やはり作り手が“素人”のせいだろうか。ウェルメイドを狙うよりも、異業種監督らしい八方破れな仕事ぶりを見たかったというのが本音だ。

 場末のマジックバーで働くマジシャンの轟晴夫は、もうすぐ40歳になろうというのに全く風采が上がらない。ある日、10年以上音信不通だった父親の正太郎が、ホームレスに身を落とした挙げ句に死んだとの知らせを警察から受け取る。父が暮らしていた河原の青テントの中で昔の写真を見つけた春夫は、二代続いた不甲斐ない人生を嘆く。その時、突如として雷に打たれて気を失ってしまった彼が気が付くと、そこは40年前の浅草だった。

 偶然にも若き日の父と母に出会った晴夫は、どういうわけか父とコンビを組んで寄席のマジックショーに出演するうちに、思わぬ人気を博してしまう。やがて彼は、父から聞かせてもらえなかった自らの生い立ちを知ることになる。

 冒頭、春夫が客の前で“昔は、普通の人生しか歩めない周りの奴らをバカにしていたが、今は普通の人生を手に入れること自体、すごく難しいことが分かる”なんてことをウダウダとしゃべる場面があるが、はっきり言って“引いて”しまった。

 そのミジメな話をネタとして披露しているのなら良いが、どうやらこの主人公は本気で独白しているようなのだ。20代の若造ならばそんな泣き言も許せるかもしれないが、どう考えても中年に差し掛かった男が吐くセリフではない(大人ならば、たとえ心の中で思っていても口には出さないものだ)。

 今の生活がみじめなのは恵まれない幼少時代を送ったからだと信じているような、そんな超モラトリアム人間の文字通りの“自分探し”なんかには興味はない。もちろん、ダメなヤツを描いてはいけないという決まりは無いわけで、ダメっぷりを思い切りよく描いてくれれば評価出来よう。しかし、本作にはそんな覚悟は見当たらない。頭の中だけで考えたような“ダメ人間”を、これまた頭の中だけでデッチ上げたようなファンタジー仕立てで“最後には少しはマシになっただろう”と勝手に合点しているような、そんな思い上がりばかりが鼻に付いてしまう。

 正太郎役として出演もしている劇団ひとりの演出は手堅く、いたずらにお涙頂戴路線に走ることもなく約90分間の上映時間にまとめているあたりは好感が持てる。主役の大泉洋、そして久々に魅力的に撮られている柴咲コウ、さらには大林宣彦の「異人たちとの夏」にオマージュを捧げたかのような役柄の風間杜夫など、キャスト陣も好調だ。しかし、淡々としたタッチそれ自体を大向こう受けをねらったものと見透かされるような製作スタンスでは、彼らの仕事を手放しで褒めることも出来ない。

 今から思えば、「異人たちとの夏」は何と良い映画だったのだろうか。欠点だらけであることを承知しつつも、見せ場には感動を覚えてしまう。今回の新人監督にはそれを上回るほどの闊達さを期待したかったのだが、どうやら無理な注文だったようだ。
コメント
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