元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「フィラデルフィア」

2014-06-18 06:22:38 | 映画の感想(は行)
 (原題:PHILADELPHIA)93年作品。この映画は、おそらくハリウッドのメジャー会社が初めてエイズ問題を取り上げ、封切り当時は各賞を獲得した話題作である。しかし・・・・実際観てみると、どんな社会問題でも娯楽映画に料理してしまうハリウッドのしたたかさとウサン臭さを目の当たりにした思いだ。

 主人公の弁護士(トム・ハンクス)はエイズに感染したことでクビになる。彼はかつて法廷で争った黒人弁護士(デンゼル・ワシントン)に助けを求め、所属していた法律事務所を相手取り訴訟を起こす。社内からエイズを排除しようと暗躍する企業幹部の差別意識を糾弾し、それに立ち向かう主人公たちの正義の味方ぶりを強調する。

 まさに勧善懲悪のわかりやすい図式で観客のウケもいい。ブルース・スプリングスティーンやニール・ヤングによる挿入歌のヒットも相まって、けっこう興行的にも成功した。しかし私は以下のいくつかの理由により、あまり評価はしたくない。



 第一に、エイズ問題をうんぬんするだけでなく、ゲイ差別や人種差別など多くの問題を盛り込もうとして視点が定まらなくなっていること。まあ、アメリカではエイズ差別すなわちゲイ差別と見る向きも多いらしく、作者の視点も同様だが、当時すでに異性間交渉による感染が多くなっている状態で、その判断は正しくないように思う。

 第二に、法廷劇としてのプロットの甘さ。というより、法廷でのやり取りを重視していない展開であるにもかかわらず、不必要にこの部分が長いのである。鳴り物入りで登場するメアリー・スティンバージェン扮する相手側の弁護士が後半影が薄くなる不思議。最後は当然主人公たちの勝訴になるのだが、決め手になった証拠がいったい何なのか今だにわからない。

 第三に、トム・ハンクスの演技。この頃はコメディ役者として人気があった彼だが、本作でのシリアスな役には違和感を持った。オペラを聴きながら切々と訴えるシーンは見せ場の一つらしいが、はっきり言ってクサイ。でも、こういう難病患者や身障者の役にはアカデミー協会は弱いらしく、見事にオスカー獲得である。

 第四に、差別意識への糾弾の甘さ。“私はエイズだ”と言われてあわてて握手の手を引っ込めるD・ワシントンや、血液製剤によるエイズ患者は解雇しないがホモ行為で感染した主人公はすぐにクビにする法律事務所の態度はもっと突っ込んで描かれると期待したのだが、尻すぼみになってしまう。白けたのは主人公の家族の異様なまでの理解の良さ。取り乱したり悩んだりしたはずなのだが、そんな時期は過ぎましたとばかり悟りきったような笑顔の洪水は、あっけに取られるばかり。

 ハリウッド的予定調和はこの題材には合わない。少しは破綻してもいいから観る者の心に迫る映画に仕上げてほしかった(まあ、シリル・コラールの「野生の夜に」みたいな一人よがりの映画も困るけど)。監督ジョナサン・デミは「羊たちの沈黙」のときも思ったが、少し過大評価されているように思う
コメント
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