元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「フィアレス」

2014-06-22 08:24:57 | 映画の感想(は行)
 (原題:FEARLESS)93年作品。設定としては面白く、展開も非凡なのだが、今一歩詰めの甘さが感じられる。とはいえピーター・ウェアー監督作としては面白い部類に属し、観る価値はあるかと思う。

 建築家のマックスは大勢の犠牲者を出した飛行機事故から“生還”した。それからというもの、彼を悩ませていた苺アレルギーも重度の飛行機恐怖症も雲散霧消し、毎日が充実しているように感じるようになる。さらには死に直面した瞬間に見た不思議な光を追い求めて、車が行き交う大通りに飛び出したり、高いビルに登ったりと奇行を繰り返す。彼は怖いものが何一つ無い“フィアレス”という精神状態に置かれてしまったのだ。



 そんなマックスをマスコミは“救世主”扱いして大騒ぎし、事故の賠償訴訟を担当している弁護士は彼を利用してより多くのカネを航空会社から引き出そうとする。一方、同じ事故で赤ん坊を亡くしたカーラは絶望の真っ直中にいた。彼女は子供が死んだのは事故の際に自分が手を離したからだと思い込んでいる。航空会社から派遣されたセラピストのビルは、この対照的な二人を接触させる。

 ウェアー監督が取り上げ続けてきた“異世界との遭遇”という題材は、今回は“彼岸の世界との交感”という構図によって展開されており、またそれが怖い物知らずの“フィアレス”なる状況を伴っているあたり、現実世界の俗っぽさを強調する意味でもなかなか野心的な作りだと思う。

 ただし、マックスと“フィアレス”とは正反対の症状を患っているカーラとの出会いにより、また一歩進んだワンダーワールドが現出するのかと思ったら、通常人への復帰の契機にしかなっていないのは不満だ。しかも、それを後押しするのがカーラとの仲を怪しんだ妻の“説得”だったりするのだから、腰砕けな感じもする。とはいえ、死ぬ一歩手前まで行った人間の、解脱の境地といった状況を描出しているだけでも、この作品の“手柄”になっていると思う。

 主役のジェフ・ブリッジスは好演。イザベラ・ロッセリーニや ロージー・ペレズ、トム・ハルス、ジョン・タトゥーロらが演じるといったサブキャラも存在感がある。そしてモーリス・ジャールによる音楽は、作品の厚みに貢献していると思う。
コメント
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