元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「赤目四十八瀧心中未遂」

2012-05-14 06:07:47 | 映画の感想(あ行)
 2003年作品。世捨て人みたいな生活を送るインテリ男が尼崎のドヤ街で遭遇する不思議な事件を描いた荒戸源次郎監督作。車谷長吉の直木賞受賞小説の映画化である。

 上映時間が3時間近い長尺だが、はじめの一時間は好きになれない。70年代の劇画のキャラクターみたいな風体の登場人物が繰り広げる大仰なエピソードの数々には胃がもたれてくるし、画面がやたら暗いのにも閉口する。しかし、舞台が小汚いアパートから屋外へと広がる中盤以降は、明るさを増す画面と共に物語に引き込まれてしまう。



 一見リアルに描かれていた尼崎の街は実は“この世のもの”ではなく、荒戸が製作者として手掛けた鈴木清順監督の“浪漫三部作”と同じく“彼岸の世界”であり、その正体が明らかになってゆく過程はスリリングな興趣をもたらす。現実と幻とのコラボレーションは伝統芸能のテイストを取り入れた鈴木清順作品と違って多分に即物的だが、それだけに衝撃度が高い。

 圧巻は赤目四十八瀧を登ってゆく主人公二人の“道行き”である。滝のこちら側と向こう側で生と死がせめぎ合うような映像の魔術にしたたか酔ってしまった。映画の最初と最後に蝶を追う少年を登場させ、全体をサンドイッチみたいな構造にしたのも玄妙で作品の寓話性をより高めている(荘子の「胡蝶の夢」の引用)。

 主演の大西滝次郎は生硬な佇まいが映画の雰囲気と絶妙なコントラストを見せ、共演の寺島しのぶは「ヴァイブレータ」よりも数段上の存在感。内田裕也、大楠道代、沖山秀子、麿赤児、大森南朋、新井浩文といった脇の面々も強烈だ。世評通りの意欲作である。
コメント
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