元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「夢はるか」

2012-05-04 19:33:48 | 映画の感想(や行)
 (英題:Shadow of Dreams)92年中国作品。一般公開はされておらず、私は93年の東京国際映画祭で観ている。舞台は台北。古美術商を営む津津(シルヴィア・チャン)は父仁樂(リー・シュエチェン)の奇行に悩まされていた。ボケ始めた父は過去の幻影を見ていたのだ。

 40年前、父は天津の舞台に立つ漫談家で、芸人仲間の童水珠(シルヴィア・チャンの二役)と愛し合っていたが、一緒になることができなかった。仁樂は天津に行き、義兄弟の元警官と老給仕の家に泊まり、かつてその舞台に立った演劇喫茶を訪ねたりする。津津が心配して天津にやってくるが、元義兄弟の二人はなんとか仁樂に正気を取り戻してもらおうと、彼がトリを務めるはずだった最後の舞台を再現しようと試みるのだが・・・・。

 冒頭、台北の街の雑踏と昔の演芸場の様子がオーヴァーラップされるタイトルバックにまず驚かされる。サウンドも同様で、過去と現在の音がコラージュのように貼り合わされる。この手法はまるでTVのドキュメンタリー番組のような処理だなあと思っていたら、監督のルー・シャオウェイはTV界の出身である(映画はこれがデビュー作)。だからということでもないのだろうが、物語は実にソツがなく、破綻もなく進む。

 古いレコードを手に入れて以来の仁樂のボケの進行、そのため夫との仲も悪くなり、途方に暮れているところへ都合よく父の元友人が出てくる。舞台を再現する場面では、過去と現在、現実と幻想を交錯させて描くのだろうと思っていると実際そうである。津津は水珠の娘であろうと予想したらやっぱりその通りであった。

 殺伐とした台北と人情にあふれる天津を対比させて描くのも予定通りで、すべてが和解したラストは台北も温かい街に変貌している。そこで台湾人と大陸に残る人々の相克をからませるのも忘れない。なんというか、ここまで予定調和で来られると、まさによくできたTVドラマを見るようで、居心地がよくないことも確かである。

 キャストは皆好演。技術的にも申し分ない“良心作”だが、ハラハラさせる展開や予想を裏切るドラマ運びは最後まで見られない。国際映画祭の出品作としては物足りないためか、終映後の拍手もまばらだったことを覚えている。
コメント
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