元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ファミリー・ツリー」

2012-05-30 06:40:57 | 映画の感想(は行)

 (原題:THE DESCENDANTS )舞台設定というものが映画にとっていかに大事か、改めて思い知らされた作品である。本作の物語が展開する場所はハワイだ。風光明媚で気候は温暖。老いも若きもアロハシャツとショートパンツに身を包み、ゆっくりと流れる時間をマイペースに楽しんでいるような土地柄である。

 ここで描かれるストーリーはかなりシビアだが、スローライフな環境が決してそれを“致命的”なものにはさせない。あきらめずに踏ん張れば何とかなるという、そういうポジティヴなスタンスが心地良い映画だ。

 オアフ島に住む弁護士のマット・キングは努力の甲斐あって仕事は順調だが、家庭生活は上手くいっていない。ビジネスの忙しさを口実に、家族をからあえて目をそらしていたというのが実情だろう。そんな中、妻がボートの事故で昏睡状態になってしまう。しかも彼女は浮気していて、マットと別れることも考えていたことが発覚。そのことは長女や友人夫妻までもが知っており、自分だけが蚊帳の外に置かれていたことに愕然とする。さらに彼は、カウアイ島にある先祖代々の広大な土地を売却すべきかどうかという、一族郎党を巻き込んだ難題をも抱えている。

 本作の構図は先日観た「わが母の記」と似ている。あの映画の主人公が随分と恵まれた環境に身を置いていたように、マットも仕事は十分にあり付き合える友人・親戚にも事欠いてはいない。世知辛い世相とは別の次元にいるようだ。

 しかし、共に主人公の設定は普遍性が高い。大切な人を失うこと、またそのことによって残された者達の屈託が表面化すること、まさに誰しも直面するシチュエーションである。こんな逆境でも、作者は真摯に人生に向き合えば何とかなるという楽天性をまったく捨てていない。

 さらに、主人公が扱う物件がカメハメハ大王の時代から綿々と今に受け継がれてきた土地であるということは象徴的だ。人間は、自分一人だけで存在出来るものではない。たとえ今は孤独でも、長い歴史と数多くの人々が自己の実存に関わっているのだ。本当の意味での“孤立”などというものはあり得ないという前向きなスタンス、これが作品全体に通奏低音のように流れている。

 久々にメガホンを取ったアレクサンダー・ペインの演出は達者で、適度なユーモアを織り交ぜながら、ドラマを停滞させることなく進めていく。ジョージ・クルーニーのパフォーマンスは今までのキャリアの中でも上位に属するだろう。ちょっと人生に迷った優柔不断な中年男を上手く実体化させていた。ベテランのボー・ブリッジスが脇を固めているのも嬉しい。そして長女役のシャイリーン・ウッドリーはナイーヴな力演で、逸材ぶりを発揮。最近のアメリカ映画界は有望な若手女優が次々と現れているようで、喜ばしい限りだ。

 主人公は妻の浮気相手に会い、土地の問題を片付け、そして妻に別れを告げる。運命を受け入れつつも、家族に向き合うその姿は観ていて胸が熱くなる。彼と2人の娘が一枚のハワイアン・キルトに身を包むラストシーンがとても良い。
コメント
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