元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「クロエ」

2011-06-23 06:19:19 | 映画の感想(か行)

 (原題:CHLOE )いくつもの映画祭で受賞歴があり、芸術家肌と言われているアトム・エゴヤン監督作にしては、随分と下世話な題材のシャシンである。ただし、今までの同監督の映画は世評ほどには優れているとは思えない。私にとっては単に変化球が得意なスノッブな作家という域を出ていなかったが、今回の通俗的なネタの披露は却って親近感さえ覚えてしまった。これからもこの路線を捨てないで欲しいものだ。

 トロントのアップタウンで産婦人科を開業しているキャサリンは、大学教授の夫デイヴィッド、一人息子のマイケルと郊外の高級住宅地に住んでいる。遠方の大学に勤務している夫は家を空けることが多いが、彼の携帯電話のメール着信履歴を偶然見てしまったキャサリンは、夫が浮気をしているのではないかと疑う。そこで彼女は若い娼婦のクロエを雇い、デイヴィッドを誘惑してそのリアクションを報告するように依頼する。

 デイヴィッドの行動がほとんどクロエによって語られること、そして母親の形見だという髪飾りが重要な小道具になっていることから、中盤で早々にネタが割れてしまう。そして、この監督だから決してハッピーエンドにはならないと思っていると、実際その通りになるのだから苦笑してしまった。エゴヤンがインタビューで“他者の思惑など操ることなどできない”と語っていたらしいが、まあ、そんな当たり前のことを作品の中で勿体ぶって言われても困るわけだ(爆)。

 ただ、観る価値はあると思う。それはキャストの仕事ぶりに尽きる。キャサリンに扮したジュリアン・ムーアは今回も海千山千の存在感を発揮。狡猾さと紙一重の迂闊さを併せ持つ、食えない中年女を上手く表現している。彼女はすでに50歳に達しているはずだが、身体の線がほとんど崩れていないのもサスガだ(笑)。

 そしてクロエ役のアマンダ・セイフライド(正式な発音はサイフリッドらしい)は、本作の見所の5割以上を叩き出していると言って良い。奔放さと純情が巧みにブレンドされたキャラクター造型もさることながら、ルックス面での優位性で観客の目を釘付けにする。顔は完全なアイドル系だが、ボディは実に挑発的。チラッと見せる裸体はワークアウトなどで無理に絞ったような不自然な様子は窺えず、実にヘルシーでナチュラルだ。それでいて巨乳というのが嬉しい(爆)。前に観た「ジュリエットからの手紙」とはまったく違う役柄をこなしているあたり、今後の活躍が期待できる若手女優だ。

 反面残念だったのがデイヴィッド役のリーアム・ニーソンで、ルックスの良いオッサンならば誰でもいいような役でしかない。彼がわざわざ引き受けるような仕事でもなかったと思う。トロントの街の清涼な佇まいや、鏡を使ったトリッキィなショットなど、映像面でもかなりのアドバンテージがある。エゴヤン監督らしい捻った展開を期待すると肩すかしを食らうが、少し毛色の変わったラヴ・サスペンスとして観れば楽しめよう。
コメント
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