元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ソウル・キッチン」

2011-06-05 06:50:10 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Soul Kitchen)たとえドン底の状態にあったとしても、美味い料理とゴキゲンな音楽さえあれば、問題は解決しないにせよ明日を見据える気力ぐらいは湧いてくる。そんな楽天的なスタンスが実に心地良い映画だ。監督はドイツの俊英と言われるファティ・アキンだが、ドイツ映画らしからぬ(?)大らかさと屈託の無さは、確かに独自の作家性を持ち合わせていると感じた。

 舞台はハンブルクの倉庫街にあるレストラン・・・・とはいっても店主のジノスはほとんど料理が出来ず、出すものといえば冷凍食品を加熱したお手軽メニューばかり。それでも味には無頓着な近所の連中で席は埋まっている。この店は食事を楽しむと言うよりも、皆が何となく集まる場としての位置づけが大きい。

 ジノスには恋人がいるが、仕事で上海に行ってしまい、彼としては不満が募るばかり。そこに幼馴染みで強欲の地上げ屋が登場し、店を売れとジノスに迫る。税務署は税の支払を要求してくるし、保健所からは衛生管理を指摘される。新たに雇ったシェフは凄腕だが気難しくて扱いきれない。しかも、服役中だったジノスの兄が仮釈放で出てきて、店で働かせてくれと言う。しぶしぶ承知したものの、酒飲みのウェイトレスとたちまち懇ろになる始末。さらに悪いことに、ギックリ腰を患って堪えきれない痛みに苦しむ日々だ。

 各キャラクターが“立って”おり、しかも見せ場を万遍なく用意しているという脚本の妙。演出は実にテンポが良く、セリフとかモノローグ等でいちいち説明せずに、シチュエーションやアクションで笑いを取ろうとする姿勢は好ましい。てんやわんやの騒動の後、落ち着くべきところにドラマが収束していくのにも感服する。

 主人公ジノスはギリシア系という設定だ。また彼の腰の治療を担当するのはトルコ人の整体師である(このシーンはケッ作)。いつの間にやらドイツも他民族が数多く入り込み、それに伴う問題も多々発生しているのだろう。しかし本作を観ていると、決して悲観する必要はなく“何とかなるさ”と悠然と構えていれば、実際に何とかなってしまうのではないかという希望が見えてくる。

 主演のアダム・ボウスドウコスをはじめ馴染みのない顔ぶれが並ぶが、皆芸達者だ。ハンブルグの下町の風景は捨てがたいし、ファンク系中心の音楽も大きな効果を上げている。2009年のヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞とヤングシネマ賞を獲得。味のある佳編である。
コメント
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