元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「グリーン・ゾーン」

2010-05-28 06:42:55 | 映画の感想(か行)

 (原題:Green Zone)あまり盛り上がらない。これは監督のポール・グリーングラスの演出スタイルと題材が噛み合っていないからだ。ジェイソン・ボーンシリーズや「ユナイテッド95」がどうしてあれだけヴォルテージが高かったかというと、殺し屋に追われる元スパイや墜落の危機に直面した旅客機といった切迫した状況が、日常生活のすぐ隣に出現したからだ。

 つまり、主人公たちの決死の行動と、平穏無事な社会との凄まじいギャップが観る者を戦慄せしめるのである。手持ちカメラを活かした臨場感溢れるグリーングラスの画面構築は、単体で評価されるべきものではない。それを効果的に見せるための段取りこそが重要なのだ。

 翻って本作の舞台はフセイン失脚直後のイラクである。マット・デイモン扮する陸軍特殊チームの隊長は、不確かな情報を元に大量破壊兵器を追い求める。当然、行く手にはゲリラをはじめとする剣呑な連中が控えていて、朝から晩まで緊張の連続だ。グリーングラスはこの様子を持ち前の即物的なタッチで綴るが、そこにはシビアな情勢と比較すべき“普通の生活”はまったく描かれないし、そもそもイラク全土が非常時体制なので描きようがないのである。

 だから映像は派手でもどこか一本調子になり、“周りの環境が厳しく、兵士達も厳しい。ああ大変だね”で終わってしまう(爆)。静と動とを巧みに融合させてメリハリのある作劇に徹したキャスリーン・ビグロー監督の「ハート・ロッカー」に遅れを取るのも当然だと思われる。

 さらに鼻白むのは、大量破壊兵器の存在の欺瞞性を観客側が知っているため、底が割れてしまうことだ。さらに、あろうことかこの映画はその原因を“一人のペンタゴンの高官(グレッグ・キニア)のたくらみ”で終わらせてしまう。もちろん、そのバックには軍産複合体の暗躍だの何だのといったキナ臭い事情がスタンバイしているのだが、本作ではそこまで深く突っ込まない。

 だいたい、第二次大戦時のようにオールマイティなパワーを持っていたアメリカならば、大量破壊兵器の存在自体をデッチ上げることも可能だったはずだが、今や軍やCIAを動員させても達成できない。アメリカの国力低下が印象付けられる今日この頃だが、映画ではそのへんにも言及しておらず、上っ面の描出に終始する。

 いくら“ブッシュ政権時のアメリカ政府はなっていなかった”と主張しようと、現在も中東情勢は混迷のままだ。その状態を放っておいて過去の責任のなすり合いを行っても、何かの冗談としか思われない。軍事ネタを扱っていてもお気楽な活劇編にしか見えない、凡庸なシャシンである。
コメント
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