元・副会長のCinema Days

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「ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い」

2010-05-22 15:24:50 | 映画の感想(た行)

 (原題:Io, Don Giovanni)まるで面白くないのは、監督カルロス・サウラの特質を活かしていないからだ。とはいえ、サウラは(受賞歴こそ多いが)個人的には「カルメン」(83年)のみの“一発屋”であると思う。どうして「カルメン」は傑作たり得たかというと、ドラマと劇中劇との絶妙の融合ゆえである。これがサウラ監督の真骨頂であり、逆に言えば「カルメン」以外のサウラ作品はそれが成功していない。脚本段階でドラマが劇中劇に対して及び腰になっており、両者がクロスするスリルを味わえない。

 本作はどうかと言えば、オペラ「ドン・ジョヴァンニ」に題材を取り、映画の中でも大々的にフィーチャーしてはいるものの、ドラマ自体はオペラの上っ面を撫でているに過ぎない。しかもこのドラマが陳腐で退屈でどうしようもない。まるで素人の作劇だ。

 オペラ「ドン・ジョヴァンニ」の脚本を書いたイタリアの詩人で劇作家のロレンツォ・ダ・ポンテ(ロレンツォ・バルドゥッチ)と、モーツァルトとの交流を描くこの映画、実質的な主人公であるダ・ポンテの造型がとにかく薄っぺらだ。作品に対する真摯な姿勢がまるで見えない。単なるプレイボーイである。

 モーツァルトに至っては「アマデウス」の二番煎じ。サリエリも同様。オペラのモデルとなるジャコモ・カサノヴァにしても、まったく存在感がない。よくもまあこんな腑抜けたキャラクター設定で映画作りに臨めたものだ。ドラマ運びも無用なシークエンスの繰り返しが目立ち、実に素人臭い。

 その代わりと言っては何だが、上演オペラの場面は見応えがある。巨匠ヴィットリオ・ストラーロのカメラによる奥行きのある画面構成。そして深く鮮やかな色彩。舞台演出も場面展開の処理などで卓越したものを見せる。もちろん、演奏および独唱者は万全だ。有り体に言えば、サウラの演出による「ドン・ジョヴァンニ」をそのまま流せば良かったのである。つまらないドラマ部分など、必要ない。

 それにしても、この「天才劇作家とモーツァルトの出会い」なる邦題は観客に誤解を与えることになろう。確かにモーツァルトも出てくるのだが、あくまで脇役だ。しかも、前半のイタリアが舞台になったパートでは、バックに流れるのはモーツァルトの音楽ではなくヴィヴァルディなのだ。このあたりも違和感を覚えてしまう。
コメント
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