元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「犯人に告ぐ」

2007-11-11 06:47:04 | 映画の感想(は行)

 ミステリー映画としてはまるで物足りないシャシンである。連続児童誘拐殺人事件の犯人と、過去に同じような事件に関わった挙げ句失敗して左遷されていた刑事の攻防戦を描く犯罪ドラマ。雫井脩介の同名小説の映像化だ。

 瀧本智行の演出は正攻法で、捜査本部長として抜擢された主人公がニュース番組で犯人を挑発するというイレギュラーなプロットに対しても、奇を衒うことなく粛々とシナリオをこなしてゆく。柴主高秀のカメラによる、彩度を極度に落としたドキュメンタリー・タッチの映像も印象的だ。しかし、原作(私は未読)が長いせいかこの映画版では焦点が絞り切れていない。

 本作の面白さはマスコミを利用して犯人を逮捕しようとする「劇場型捜査」にあるはずだ。よって、物語のハイライトは主人公と犯人との虚々実々の駆け引きにあるべきだが、なぜかストーリーは警察内部の縄張り争いやマスコミ同士のせめぎ合い等を中心に進んでゆく。「踊る大捜査線」あたりを真似たようなアプローチで、これはこれで描くネタが存在することは認めつつも、肝心の犯人の屈託ぶりは微塵も窺えない。そして主人公の精神的バックグラウンドも描出されていない。

 ならばその警察内のゴタゴタが面白いかといえばそうでもなく、ありきたりの“主導権をめぐるメンツの対立”であり、こんなのは過去いくらでも映画やドラマで取り上げられた題材であって新味は全くない。それでも興味を引くような展開があればいいのだが、これも肩透かし。逆に主人公と対立する幹部連中の間抜けぶりがクローズアップされるだけで・・・・要するに“面白くない”のである。

 そして、犯人を追いつめるプロセスにしても低レベルかつ御都合主義的だ。だいたい、犯人からの手紙に手形の一部が付いていて云々という設定も取って付けたようなハナシであり、その手紙の“書き手”に関するプロットも安易極まりない。さらに犯人が手紙を“紛失”する経緯に至っては、観客をバカにしているとしか思えない筋書きだ。

 それでも何とか最後まで観ていられたのは、キャストの頑張りだろう。刑事役は珍しい豊川悦司は大熱演で、大柄な大根役者としての印象が先行している彼だが(笑)、今回は“勢い”を主眼とする役作りのためか外見的な存在感だけで乗り切っている。彼をサポートする巡査長役の笹野高史も味のある好演。上司役の石橋凌は不貞不貞しくて良いし、キャスターに扮する崔洋一も“意外な”うまさを見せる。ただし、主人公と対立するエリート警視役の小澤征悦とその元カノのニュースキャスターに扮する片岡礼子の扱いはつまらない。俳優の持ち味を発揮できる配役に腐心すべきであった。

 WOWOWが新たに立ち上げた劇場用映画レーベル「WOWOW FILMS」の第一弾作品。今後は既存の映画会社とは一味違う番組展開を期待したい。
コメント
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