BIKEBIND自転車日記ブログ2

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ブリヂストン・ネオコット

2010-08-23 04:19:00 | 自転車
今年はフロントフォークをクロモリ製に戻し、流行のフルクロモリとして支持を得ているネオコット。

昨年にも実はスペシャルでクロモリフォークがあり、それは競輪用の材料をつかった非常にレアなモデルでした。でもそれはほんのわずかな量しか生産されず、知らない人も多いでしょう。

2010モデルに付いているフォークは、ベテラン勢からすると手抜きがかなり見えるようです。初代のネオコットはフォーククラウンも選択できるほど、懲りに凝った製品でした。

ただ色々話しを聞くと、クロモリは世界的に圧倒的少数で、素材を仕入れるのも随分と苦労しているそうです。日本にはスチール専門ブランド、カイセイがあるのが救いです。他にも富士ワイヤなどが細々と作っているそうです。

ラグはさらに酷い状況にあり、みんな苦労しているようです。そう言う意味ではネオコットのクロモリフォークも許してあげなければいけないでしょうか。



今では何処のブランドも台湾メイド、中国メイドなどということは珍しく無くなりました。いや珍しく無いどころか、高品質の証でもあります。

実際、国産メーカーのセールスマンに聞いても「あの値段であのクオリティは出せない」と言っていました。ブリヂストンも例に漏れません。シマノのある国とはいえ、非常に高い人件費は製品群をある程度の値段に留めてしまいます。それでは海外製品と勝負が出来ないのです。


日本でこそブリヂストンは自転車メーカーとして有名ですが、海外に行けばもう、圧倒的にタイヤメーカーです。「えっ? ブリヂストンの自転車?」という感じです。KTMが本国では立派な自転車メーカーとしてなりたっているのと同じかもしれません。日本人なら最も身近なバイクブランドですね。

アンカーのラインナップで数少ない国産バイクが『ネオコット』です。今ではRNC7という名称を与えられています。行程を簡略化した下位モデルも出ていますが、こちらの方が本家本元なわけで、語るならやはりこちらというわけです。でも安い方が基本的にTIG溶接なので、小さなサイズが作れます。サイズオーダーも受け付けていたはずです。

このフレームはデビュー時から手間のかけ方がまるで異なっていました。クロモリ全盛期に現れ、数多くのライバルの中で輝き、そして今なお残っているのはこのフレームくらいでは無いでしょうか。

他の製品がチューブメーカーからそのまま(時にはオリジナルスペックでしたが)使用していたのに対して、ネオコットは独自の技術『バルジフォーミング』と『スピニングバテッド』というオリジナルの技術をひっさげて登場しました。

『バルジフォーミング』とはパイプを型にはめ、内部から高温の油圧を掛けることにより自在な成形を可能にした技術です。今で言うハイドロフォーミングと似ていますが、ちと異なります。ハイドロフォーミングは伸びのないアルミであの成形を可能にしたことに意義があります。逆にバルジフォーミングは水道の蛇口の凝った形状の作り方と同じです。行程は異なりますが『しぼり』の技術と近いモノがあります。そしてラグを兼ねた形状にレーザーカットしたのです。

『スピニングバテッド』は無段階のバテッドを可能にした技術です。当時はクオルダブルバテッドなど肉厚を変化させ、剛性と軽量性を両立させようとしていました。すべて調整可能なスピニングバテッドはバテッド技術の最高峰と言うことも出来ます。この削りを変えることで剛性をコントロールしていたのです。

MTBでは発売当初、オーバーサイズ化の影響もありとても剛性の高いバイクとして現れました。ロードにおいては同じスケルトンでもバテッド厚さを変えてソフト、ミディアム、ハードという乗り味の異なるバイクとして話題をさらいました。これは外径などは同じで、内部のバテッドの削り具合を調整下のもです。柔らかければ肉厚が薄くなり軽くなります。硬いのはその逆です。

ある意味2010年に登場したおそらく世界で初めて剛性を一般ユーザーが選択できるカーボンフレーム『RMZ』のルーツと言っていいでしょう。(一応コルナゴはC40を一般人からオーダーを受けていましたが、マスプロダクトとは言えないでしょう)

評価が高い理由は何故か? 

ある意味カーボンフレームと一緒だと思います。現代のカーボンフレームが単純に見かけによらず、積層、配置、繊維グレード、などの要因によりまったく異なったフレームが出来るように、ネオコットも内部のバテッドを変えることでその時その時の最善のフレームを作り出してきたのではないかと想像できます。

さらに素晴らしい理由として、残留応力の少なさが挙げられます。

これは金属であるフレームの宿命なのですが、溶接段階でどうしても応力が残ってしまいます。スチールフレームの前三角の一部を切断したならそれは三角形を保っていられません。溶接の段階、自転車の形にする段階である程度の無理をさせているからです。

この応力の少なさが、ある意味ビルダーの技術の粋だと言うこともできます。ネオコットは一工程溶接が少ないのです。それはチューブ自体がラグも兼ねているから。

ラグとは名の通りチューブとチューブの継ぎ手のことです。この時点で同じ技術者でも残留応力が半分になることが確定します。さらに通常のラグフレームがサイズを許容出来るようにある程度のクリアランスをあらかじめ持っているのに対して、ネオコットは各サイズごとに各のチューブが必要ですから、溶接時の安定性がまるで違うことが容易に想像できます。

残留応力が少ないことのメリットは?それは素材の持つ弾性が限りなく100パーセントにちかく活用できることです。図面通りにまっすぐ溶接が出来ているなら、何も負荷が掛かっていない状態のチューブにはどの方向にも同じ力で同じ距離だけ動かすことが出来ます。

しかし少しでも曲がっていたら?

それはサスペンションのプリロードと同じように考えることが出来ます。すなわち最初から曲げられている方向には動き出しやすいのですが、他の方向には最初の曲げの力を足した力が必要になると言うことです。簡単に言えば、スチールフレームは良くバネに例えられます。そのバネの性能を殺してしまっていると言うことです。

そのようなリスクを減らしているのがネオコットです。革新的で唯一無二。ここまで言い切っても褒めすぎでは無いでしょう。そして溶接を担っているのは日東だそうです。デザインなどはともかく、日東の技術力、精度に異論のある人はいないでしょう。海外フレームがすべてを牛耳っている世界で、何とも凄いではありませんか!

ただ一方でヘッドチューブが1インチ(しかもイタリアン!)であることなど旧来からの規格に縛られている側面も存在します。ここらへんをさらに一歩進めたならさらなる進化が望めると思うのですが……。インテグラルの必要はありませんが、オーバーサイズ化は有効に働くでしょう。

型も十二分に元をとったでしょうに。個人的にはいろいろなアイディアを盛り込んでさらにもう一段上をねらってみたいです。素材だってレイノルズがステンレス管を出してきたんですから、ネオコットだっていけるはず。

前の文調がまるでスチール=ネオコットのような感じを与えてしまったかもしれませんが、決してそう言うわけではありません。ネオコットとは有限要素法から導き出される最適形状理論なのです。なので本来は素材の如何を問わず何にでも応用が出来ます。

実際に過去のブリヂストンのラインナップにはスチール以外のネオコットが存在しました。ネオコットカーボンです。ぱっと見たときは何も珍しい形状をしていません。スケルトン自体も10年以上前の製品だなあと感じてしまいます。それでもチューブの末端がテーパー状に加工されるなどネオコットの技術は確実に生きています。

ここで気になることが出てきます。「なぜネオコットはアルミモデルやカーボンモデルに使用されなかったか、またされ続けなかったか?」と言うことです。実際ネオコットのバイクはロードバイク、MTB問わずに未だに熱心な信者がいます。それはひとえに性能があったからでしょう。そのように優れた理論がなぜブリヂストンの主柱にならなかったのか?バルジ製法やスピニングバテッドが使えなかったからと言うのは理由になりません。仮にもカーボンモデルが市販にこぎ着けているのですから。理論が古かったのか? これは少しあるのかもしれません。しかし、現代のネオコットは設計が古くても走りが見劣りするという訳ではありません。むしろ部分的には上回っているところもあるくらいです。

ただ重量はスチールの限界を超えていません。この重量というファクターは多分にあると思います。レース機材であるか否かを問わず、軽薄短小に流れていくのは工業製品の性だからです。現代のネオコットは1700グラム以上の重量があります。「バイクには重量なんて関係ない」と言う話は良く聞きます。しかしこれはナンセンスです。人が運動する以上その道具には常に力が作用しています。そこにIキログラムかそれ以上の重量差があればどうしても消費されるカロリー、エネルギーは変わってきます。

自転車は極端な解釈をすれば、少ないエネルギーでどれだけ速くどれだけ遠くに移動できるかが命の乗り物ですから、エネルギーの消費が抑えられる方に傾いていくのは当たり前の論理です。これは絶対の法則なので、このあたりがネックになったにかもしれません。

そしてこれが決定打になったと個人的には思うのですが、コストが掛かりすぎたのが原因ではないかと。いくら良品でもコストが回収できなければ大手メーカーにとっては存続する意味がありません。これを裏付けるのは型です。スピニングバテッドで剛性の調整はしてるようですが、スケルトン自体は過去の製品そのままです。フロントフォークの長さなどを見れば分かります。ネオコットのフォークは非常に特殊で他の製品とはまず互換性がありません。

今に至るまで過去の型を使い続けているのですから、随分とコスト回収に時間が掛かった製品です。まあ、さすがに今の時点ではプラスに転じているでしょうが。

違った可能性を見てみたかったのは、私だけではないのではないでしょうか。


追記

知人からアドバイスを頂きました。カーボンフォークに変わった以外にも、BBラグの変更、チェーンステーレングスの変更などがあったようです。なるほど。ですが前三角だけは変わらなかったみたいです。

ネオコットのジオメトリはちょっと特殊なので、社外品のフォークなどに差し替えることはやめておいた方が良いみたいです。


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