海に吹く風

海の大好きな私
ここで皆さんとお話しましょう

日々思うこと、短歌についても書いていきます

『六月挽歌』

2009-06-26 14:59:42 | 短歌
『六月挽歌』より

六月のアート・フィルムずたずたに裁断されしままラッシュ・バックせよ

六月の挽歌うたはば開かれむ裏切りの季節一人の胸に

陽は昇る狂ひ損ねし日時計の悲しみ照らすために明日も

挑戦のまなざし受けて閉ざしたる白粉ケース二度と開かず

晒す身はもはや持たねば白妙のたましひ纏へ一条さゆり

ひとり生(あ)れひとり死すとふ人界に蔓からませて開く朝顔

わが裸身白くちひさく畳まれて君のてのひら深く眠らむ

立ち尽くす誇あらばや風のなか一糸纏わぬ冬の木立よ

目前に若きかの日の私が東雲行きのバス待ちゐたり

黎明に未だしあれば胸焦がす叩け揺さぶれ六月挽歌



久し振りに心の底を揺さぶられる歌集に出会った。
昨夜一気に読んでなかなか寝付けなかった。
深い叙情、知性に裏づけされた情念、前に向かってすっくと立っているような矜持の強さ。
時代をひたむきに生きて、決して後ろを振り返らない女性の生き方が歌から透いて見えた。

黒田和美は1943年生まれ、1961年に早稲田大学に入学、早稲田短歌会に所属した。福島泰樹と同期。
1983年に福島泰樹が歌誌「月光」を創刊すると、それを機に短歌に復帰した。
跋文は歌集の紹介というよりはともに過ごした日々の回想のようである。

福島泰樹といえば第一歌集『バリケード・1966年2月』が有名であり、黒田和美も同じ時代を生きてきた。

残念なことに黒田和美は2008年急逝した。
しかし決して後ろを振り向くことをせず生きてきた彼女は早すぎる死に際しても、悔いを残さなかったような気がする。
黒田和美が亡くなって福島泰樹の跋文はそのままそっくり追悼文となった。 
コメント (2)
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