アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

崔 文洙のブラームス「思う心の演奏会」

2021-03-06 23:00:00 | 音楽/芸術

まもなく東日本大震災から10年。あの日の衝撃はアントンK自身当然忘れてはいないが、そんな想いをこめた演奏会が愛知県で開催された。

ブラームスのプログラムの前にマーラーの第5交響曲のアダージェットが演奏されたが、これは、新日本フィルが震災当日の夜、定演で取り上げた楽曲だそうで、完売公演の演奏会に105人の聴衆が集い演奏されたとのこと。楽曲を通じて演奏者方には当日の想いが蘇ったのではないだろうか。

崔 文洙氏のブラームス ヴァイオリン協奏曲を鑑賞するために愛知県東海市まで足を運んできたが、昔からどこへ出向くのも国内であればさほど苦にはならない。むしろ今回の公演は有難かった。このタイミングで道中愛知の旧友にも再会できるし、また鉄道撮影だって場合によっては楽しめるからだ。さてブラコンの演奏であるが、情感豊かな音色を以ってたっぷり聴かせるのは、いつもの通りだが、より堀が深くなり、優しさや悲しみ、そして明日への勇気が演奏からみなぎり、鑑賞していて心が熱くなった。1mov.での唐突に開始される和音のテーマは、気持ちがこもりきり、続く数小節の下降音形は、苦難に立ち向かう悲壮感すら感じてしまい、思わず涙がこぼれてしまった。テンポは過去に聴いた演奏の誰よりも遅く、音符の粒が見て取れ、間が深くずっしり重い。ミンツがソリストのチェリビダッケの演奏よりも遅いのではないか。今こうして振り返ると、そんな想いがする。

そして続くアダージョ楽章は、まず分厚い木管群の響きに乗るObの美しさで、アントンKの日常が消えていった。そして崔氏の奏でる音色は、日頃の慰めとなり心が透き通っていく。良い事も悪い事も、響きの中から湧き上がってくるが、そこに見える景色は、暖かく幸せな空間なのだ。アントンKにとって一番楽しみにしていたのが、続く3mov.だった。冒頭いきなり崔氏によって始まるテーマは、期待通りの溜めが入り、オケ全体を揺らがす。これは、かの名将オイストラフの演奏がそうで、その演奏をさらに独自性を以って際立たせた解釈。かつこの楽章に入るや否や、弓なりに身体を使って、トレードマークの髪を振り乱しながらのパフォーマンスは最高で、音楽がさらに大きく聴衆に迫ってきたのであった。ソリストとしての崔氏が時より見せる、オケメンバーへの眼差しは、コンマスの崔氏そのものであると思ったし、最も身内であろうVn群には、自分も一緒になって弾かんばかりに溶け込み、指揮者井上氏とともにリードしていたように感じたのである。

今回もコロナ感染症の影響で、指揮者が井上道義氏へと変わったが、結果として良かったのではないかと思っている。(変更前の指揮者アルミンクは聴いたことがない)それは、これだけの熱量をもった崔氏の演奏を受けとめ、絶妙なバランスでオケをコントロールした井上氏の力量は流石であり、地元オーケストラ演奏を含めた対応力や、地方公演での聴衆への語り掛けなどは、センスに富んだ井上氏の独壇場に思えたのである。ただ、なぜプログラムをブラ1からブラ2へと変更したのかが謎だ。

途中休憩を挟んだとはいえ、後半の第2交響曲にも崔氏はコンマスとして再登場。これには驚嘆した。約40分にわたる楽曲を全身全霊で演奏し、パガニーニのアンコールまで我々に披露頂いた上でのことだからだ。であるのなら、コンマスソロがあるブラ1の方を聴きたかったと思うのは、単なるファンのわがままだろうか。

興奮冷めやらぬまま、ハンドルを握り夜の東名を上る。いつも鳴らしているカーオーディオはオフ。道中、演奏の要所要所の残像が頭の中を駆け巡り、今さっき聴いた演奏を振り返るこの2時間にとても生きがいを感じる。今月はまだもう一つの目玉演奏会が残っている。ベートーヴェンのトリプル・コンチェルトだ。おそらく演奏自体珍しいと思うので、今から楽しみにしている。

新日本フィルハーモニー交響楽団「思う心のコンサート」

マーラー  交響曲第5番嬰ハ短調より 第4楽章「アダージェット」

ブラームス ヴァイオリン協奏曲ニ長調

ブラームス 交響曲第2番 ニ長調 OP73

アンコール

パガニーニ うつろな心

エルガー  行進曲「威風堂々」第1番より

指揮   井上 道義

ソロ   崔 文洙

コンマス 西江 辰郎(マーラー/ブラコン)

コンマス 崔 文洙(ブラ2)

2021年3月6日  東海市芸術劇場大ホール

 

 



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