ごく最近聴いたCDで特に気になったものについて・・・
Ⅰ ブルックナー交響曲第3番ニ短調
西脇義訓指揮デア・リング東京オーケストラ NF25801
このCDの録音のためだけに、音大卒業生にメンバーを募り、組成したオケで録音されたブルックナーの第3交響曲だ。指揮者である西脇氏の実験的な要素が強いようで、CD付属のブックレットにある録音風景の写真を見たら度肝を抜かれた。演奏者が全員舞台に対し真っすぐに座り正面を向いているのである。これでは、演奏中指揮者など視野に入らないだろうが、理想的な響きのための配置だそうで、本番でも、指揮棒を見る必要などないそうだ。で、試聴してどうだったというと、なるほど、聴こえてくる音の響きは澄んでいて、各声部が手にとるようにわかる感覚だ。まるで自分が指揮台にいるかのような響きがするのである。「至福の響き」と唱ってあるが、果たしてこのブルックナーでこの響きは本当に相応しいのだろうか考えさせられてしまった。個人の好みも大いにあると思うが、やはり響きは素晴らしくても、スケールがまるで小さいのだ。だから、ブルックナーの響きには向かないように一聴してまず感じてしまった。逆に、このオケでベートーヴェンやシューベルトが聴きたくなったのである。
Ⅱ ブルックナー交響曲第8番ハ短調(ノヴァーク版)
井上道義指揮京都市交響楽団 OVCL-00521
今年の京都でのライブ録音が新譜として登場した。事前情報で演奏会予定はわかっていたが、さすがに関西まで行く気持ちにはなれず、そのまま忘れてしまっていた演奏会だった。エクストン・レーベルからの今回の新譜、邦人演奏家のCDは久しぶりだ。オケは、京都市交響楽団で、長年指揮者の井上氏が指導してきて近年安定してきたと言われているオケだから期待も高まるというもの。
井上氏のブルックナーは、初めてではない。もう何年も前に、新日本フィルを振った第7のCDを聴いている。この内容が良かったから、今回の第8も期待を持っての購入となる。個人的には、まだ井上氏の演奏には、さほど触れていないので、正直よくわかってはいない。実演で過去何回か程度のものなのだ。ただ独特のキャラクターを持ち、浮き沈みがはっきりしているよにお見受けするので、また、若い頃、かのチェリビダッケ氏の指導も受けられたとのことだから、彼独自の個性、音楽でいうところの「独自性」が明確になった演奏が聴けるかもしれないという期待もあった。
2枚組のこのCD,今まで何回となく聴いている。トータルで考えれば、曲が曲だけに、最後は感動を覚えるが、細かい部分に目をやると、「まだまだやれるぞっ!」と思える部分も散見できた。全体を通してテンポは、インテンポを基本に置いており、思いのほかオーソドックスな解釈。下手に手を出すと、ブルックナーの音楽は本質から離れていくから、これは賢明なやり方かもしれない。版は違うが、先日のケント・ナガノ盤などは、そのよい例、どこか別世界に連れていかれた気になってしまった。トータルで、ティンパニの主張がポイントにおいて激しくて理想的。特に、スケルツォの1拍目の打音にアクセントを付けて叩かせており、これは初耳といえる。また、フィナーレの導入部の自己主張や展開部でのリズム感は素晴らしく、90年来日時のMPOの巨漢ザードロを彷彿とさせていた。こうなってくると、実演に触れるべきだったと後悔してしまうが、まあ井上氏は、これからますます面白くなる予感がするし、焦ることもない。
Ⅲ マーラー交響曲第1番・第2番「復活」・第3番
ロリン・マゼール指揮フィル・ハーモニア管弦楽団 SIGCD 360
今回ロリン・マゼール指揮フィルハーモニア管弦楽団にてマーラー交響曲全曲録音が始まり、その第1弾として初期の3曲が発売された。マーラーのシンフォニーのCDを手にするのは、何年振りだろう。わからないくらい時間が経ってしまった。思えば90年代はマーラーブームが到来していて、少なからずアントンKも影響を受けていた時代。友人に誘われ実演も毎週出向いていた頃が懐かしい。まあそれだけマーラーの演奏会が毎日のようにあったということだが、あれからずいぶんと時間も経って、もし今毎日毎週マーラーづけだったらしんどく感じるだろう。ま、それはともかく、マーラーをじっくり聴くのは久しぶりだ。
交響曲第1番から3番までの5枚組のセット。なかなか聴きごたえがある。この3曲については、前回のSONYで入れたウィーン・フィルとの全集(80年代録音)との差が明確だった。VPOとの80年代、バイエルン放送響との90年代(これはプライベート盤)、そして今回のフィルハーモニア管との最新録音。この3世代の演奏を比較したならば、極端ではないが、年を追うごとにテンポは遅くなっている。メリハリがはっきりしているとでも言ったほうがいいか。一時不調が伝わっていたオケのフィルハーモニア管弦楽団も、マーラー演奏においては、その名立たる指揮者を連ねた歴史というものをせおっているからなのか、パワフルであり、優雅であり、美しく綺麗であり、熱演を奮っていた。第2番のコーダ、オルガンと合唱が壮絶に響くところのテンポが好みより速くてとても残念だったが、最後の1ページに向かって感動的であった。第1番の素朴な味わいや圧倒的な高揚感は、もちろんであったが、ここでは、第3番に少し触れてみたい。マーラー全集の中でも一番巨大な第3番は、通常でも90分は越えてしまう演奏が多いが、ここでの演奏は、100分を有に越えている。実際聴いてみると、遅いという違和感など微塵もないが、第1楽章の夏の行進の部分や、それに続く再現部からコーダにかけての充実振りには圧倒される。そして、終楽章の「愛が私に語ること」では、全ての声部に気持ちが込められ涙を誘う。暗黒から光が射し、勝利に向かってのラストの行進は、感動的で、前録音のVPOとの時もそうであったが、2人のティンパニ奏者の強烈な響きとともに、最後の3小節は大きくリタルダントをかけ、この長大な交響曲の幕が下りるのである。アントンKにとって、この第3シンフォニーは思い入れが強く、現在マーラーではベスト3に入るが、今までの経験をも加味してもこの第3番は、かなり上位ランクに位置しそうな勢いだ。
(後編に続く)
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