アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

春に聴く上岡の「悲愴」

2018-03-26 15:00:00 | 音楽/芸術

新日本フィル定演「ルビー」へ

春爛漫のこの日、すみだトリフォニーホールのある錦糸町界隈は、桜も咲きそろい近隣にある錦糸公園の人出も最高潮だった。そんな春の暖かな午後に行われた演奏会は、激情に満ちたものとなった。

前半はレスピーギ「ローマの噴水」とボッテシーニのコントラバス協奏曲第2番というイタリアの作品。休憩をはさんで後半はチャイコフスキーの「悲愴」というプログラム。考えてみれば、新日本フィルも多種多様な音の世界をいかんなく構築できるオケに変わっている。今までよりもさらに深く詳細に、だ。レスピーギのようなきらびやかな音色の世界から、精神の通った重厚で暗い世界までオールマイティなオーケストラになった。これは監督の上岡氏の筋の通った音楽性によるものだろうし、これもまだ発展途上であるはずだ。昔は、在京のオケでもそれぞれ個性があり、楽曲とのマッチングを想像することも楽しみの一つだったが、現在はどうだろう。個々の技術レベルが最高潮となった反面、音色自体は没個性となってはいないだろうか。アントンKは、最近新日本フィルばかりだが、出来れば他のオケの演奏や、来日オケの演奏にも顔を出して、可能ならば多角的に演奏を楽しみたく思っている。しかし肝心なことは、オーケストラの外面的な部分よりも、演奏される楽曲の良し悪しの方が自分にとって重要だから、信じた指揮者や演奏家達にとことん付いていき、自分も一緒に新たな発見が見つかれば幸甚である。

さて、演奏会での「悲愴」の印象を自分のために少しだけ書き留めておく。

上岡敏之の「悲愴」は、アントンKにはとても新鮮で現代風の解釈に感じられた。昔よく聴いたような、どろどろと情感だけが前面に出ているような演奏ではなく、メリハリの利いた厳しい演奏だったように感じている。上岡氏の場合、過去のどの演奏にも似ていないのはいつものことで、そういった面では、新たな発見は演奏中多々見つかるので面白い。第1楽章展開部直前の木管楽器の音量も、普通聴かれるものより、圧倒的に大きく明確な表現を要求。第3楽章では、マーチに入る手前の大太鼓が荒れ狂い、地響きとなって我々に襲いかかってきた。しかし最も印象的だったには、終楽章の悲痛な解釈だろう。テーマを奏でる弦楽器の音色の深みと表現には終始圧倒され、管楽器の雄叫びに涙する。特に24からの金管の上昇音階は、心に強く突き刺さってきた。そしてベースが鼓動を表して、しだいしだいにフェードアウトしていく解釈がよく聴かれる演奏だとしたら、この日の演奏はまるで違い、息の根をプツっと止めてしまった。ベースもしっかりと音を保ち、鼓動もしっかり聴き取れるのだが・・・この表現は、ある意味ずっと悲しみを誘う表現に感じた次第。過去にも実演で数々の名演に触れてきたが、こういった終結表現は無かったように思う。全体を思えば、激情型の悲愴だった。

新日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会「ルビー」

レスピーギ  交響詩「ローマの噴水」 P106

ボッテシーニ コントラバス協奏曲第2番 ロ短調

チャイコフスキー 交響曲第6番 ロ短調 OP74 「悲愴」

指揮     上岡敏之

Cb     渡邊怜雄 

コンマス 崔 文洙

2018-03-24  すみだトリフォニーホール