『絶対に行けない世界の非公開区域99』
ダニエル・スミス 著 小野智子 片山美佳子 訳
日経ナショナルジオグラフィック 2022年
まさにタイトル通りの本である。国内外の非公開区域を紹介している。私の場合タイトル通りの場所でイメージできるのは「北朝鮮」位なのであるが、日本はもとより海外にこのようにたくさんの場所があるのかということに驚いた。
本書ではなぜそこが「非公開区域」になっているのか、その理由を幾つかのカテゴリーに分類している。例えば、「高度なセキュリティ」や「機密事項」。これはその国の中枢を担う場所のため、厳重な警備の下で管理されており「非公開」はもとより、一般には存在場所すら知らされていないと理解できる。また、「立ち入り制限」というのもすぐに理解できるだろう。危険な場所のために、一般の人は立ち入れないということである。しかし、全く理解できない項目もある。その1つが「存在未確認」。未確認だから入れないというのは分かるが、なぜそれがどこかにあるということが分かるのであろうか。例えば、イギリスの「ホワイトホールの地下トンネル」。本書によると、この場所は「ロンドンの国会議事堂とトラファルガー広場とを結び、英国政府の中枢であるホワイトホールで働く人々がりようしたというトンネル網の存在は、いまだ不確かな噂のままである(p118)」。つまり世界的な規模で噂になっている場所や建築物についても本書では取り上げられているのである。この項目が案外好奇心をそそられる。うっかりすれば、自分で探してみようかという気にさえさせてくれる、説明文なのである。この項目が思った以上に多いというのも特筆しておきたい。世界にはまだまだ未確認の場所があるということでる。
本書で紹介されている場所の中で、私にとってインパクトが強かったのが、アメリカのペンシルベニア州にあるセントラリアという町。こちらは「立ち入り制限」となっているが、その理由がなんと50年間町が燃え続けているのだという。1962年に炭鉱の坑内で火災が発生。火災は町にも広がったらしい。消火活動に失敗したため、自然鎮火を待つことにしたのだそうだ。鎮火までにまだ250年かかるらしい。当時人口は2000人を超えていたが、現在は10人前後ということである。火災の規模も凄いが、自然鎮火を待つというその判断というのが、何とも言えずアメリカ的である。国土が広いアメリカならではの事かもしれないが、これが国土の70%が山林となる日本なら、自然鎮火を待っていたらあっという間に国土全てが焼き尽くされそうな予感しかない。
日本の非公開区域も紹介されている。それは「伊勢神宮」。紹介文にはこのように記述されている。「日本に1億2千万人の信徒がいるとされる神道は、唯一神信仰ではなく自然の中に神を見出す伝統宗教だ。伊勢の神宮は神道であるため、内院という奥の聖域への立ち入りは厳しく制限されており、皇族出身の高位の神職しか入ることができない(p236)」。
この紹介文を目にした時、確かに「伊勢神宮」の内院は一般には入れない。しかし、国内にある多くの神社は内院ではないが、本殿まで立ち入って参拝はできない。入ることが可能なのは、拝殿までである。また、本殿だけでなく境内には「神域」を持つところも多く、注連縄で結界が張られている場所は入ることができないだけでなく非公開のところも多い。そう考えるとそれだけでも日本にはかなり多くの「非公開区域」というのはあるのではないだろうか。これは日本人にとって「当たり前」の感覚なのであるが、著者はアメリカ人である。この日本の文化、伝統が他国の「非公開区域」と同列に並べてしまうほど、特殊な場所なのだと感じてしまうのであろう。実は本書を読んでいちばんの発見はこのことであった。
文責 木村綾子
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