京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート『ほんとうのリーダーのみつけかた』

2021年03月02日 | KIMURAの読書ノート


『ほんとうのリーダーのみつけかた』
梨木果歩 著 岩波書店 2020年7月
 
本書の表紙を見たとき思わず二度見してしまった。タイトルと著者が私の中で一致しなかったからである。著者、梨木果歩氏はルドルフ・シュタイナーに造詣が深く、「行きて帰りし物語」をそのまま絵に描いたようなファンタジーを紡ぐ作家というイメージがあった。それでも近年その部分をオブラートに包んだ作品となってはいたが、決して何かを訴えるような直接的なタイトルを付ける作家ではないと思い込んでいた。
 
ページをめくると本書を上梓する経緯が記されていた。2011年に理論社から出版された『僕は、そして僕たちはどう生きるのか』が2015年岩波書店から文庫化された節目に、出版社の方が若い人たちに著者が講演をするという企画があり、その時のメモ書きをもとに文章化したものだという。先ほど、彼女の著書は直接的なタイトルを付ける作家ではないと書いたが、私自身この作品が上梓されて間もなく手にしており、その時の自分自身の記録に「彼女の作品にしては(私が読んだ中では)、直球で現在の日本社会を浮き彫りにしています」(2011年10月19日記載)と書いていたことを見つけ出した。そう、この作品そのものが異色だったのである。そして、読んだ当時は全く気が付かず、本書を読むことで知ることとなったのが、この作品は吉野源三郎著の『君たちはどう生きるか』のアンサー作品として描いたものであるということである。その辺りの経緯も詳細に本書で綴られている。
 
それでも、ページをめくるごとに私は度肝を抜かされる。
●怖いのは、「みんな同じであるべき」「優秀なほど偉い」という考え方が当たり前のように場を支配しているのに、指導者が「みんなちがって、みんないい」と、その言葉のほんとうの意味も考えず、さして慈愛の気持ちも持たずに、型どおりにそれを繰り返していることです。(p14)
●大きな容量のある言葉を大した覚悟もないときに使うと、マイナスの威力を発揮します。~略~ こういう言葉遣いをするのは現代の政治家に多い。~略~ その結果、ほとんど真実でないことまで繰り出してくる羽目になってきた。私は、今の政権の大きな罪の一つは、こうやって、日本語の言霊の力を繰り返す、繰り返し、削いできたことだと思っています。(p15~16)
  上記引用したのは、全体のごく一部であるが、著者がここまで政府を痛烈にはっきりと批判しているとは、読む前は全く想像していなかった。それほど、著者は今の日本に対して危機感を抱き、憂慮しているのである。いや、「今の日本」としたが、これを語り綴ったのは今から6年も前のことである。逆に今、著者はこの日本社会をどのような形で見ているのだろうか。この間に日本のリーダーは変わったが、そこに決して明るい光を見出したとは思えない。6年前の記録を今、ここに上梓したこと。なぜ今、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』を取り出したのか。わずか69ページの著書であるが、語る内容な深く重い。そして最後に彼女が出した結論。おそらく、読者以上に政府へ著者は届けたいのではないのかと、しみじみと感じた。

ーーーー文責 木村綾子

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