京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート『だいじな本のみつけ方』

2015年06月02日 | KIMURAの読書ノート
『だいじな本のみつけ方』
大崎梢 作 光文社 2014年

本好き野乃香の周辺で巻き起こる本にまつわる物語。表題作を含め2編。

表題作「だいじな本のみつけ方」は、人気作家の出版前の新刊が学校の手洗い場に落ちていたことから始まる。その持ち主を探す野乃香。そして、そこから野乃香が通いつめている書店において、野乃香たち中学生とのコラボレーションによるイベントが開催されることに。本の持ち主は?イベントによるその結末がほんのり心を温かくさせてくれる。

2編目は「だいじな未来のみつけ方」。野乃香の卒業した小学校から小・中交流のイベントができないかと中学校へ依頼がある。それを校長先生は野乃香たちに打診。そして考えついたのが「読み聞かせ」。そのため幼い頃、読み聞かせ会に参加した時の読み手、ビトさんにアドバイスをもらおうと公民館に向かう野乃香たち。しかし、ビトさんの姿はなく、とある出来事でビトさんが公民館を去ったことを知る。ビトさんを探す野乃香たち。そして小・中交流の行方は?

この作品は「BOOK WITH YOU」という小学高学年から高校生位までを対象としたY・Aのレーベルである。Y・Aと侮ることなかれ。この作品の作者からも分かるように、れっきとした文芸書で活躍する作家ばかりである。それを今を生きる中・高生を登場人物とし、等身大の彼らを描いているのがこれらのレーベルである。

実際に、この作品では現在の中学生の「本」に関わる背景が盛り込まれている。中学生が学校で「本」に関わるとすれば、真っ先に思い浮かべるのが「図書委員会」の活動。今時の委員会活動は校内の図書室だけにはとどまらない(委員会活動だけではないが)。2編とも校外で展開する活動を垣間見ることができる。しかし、そこは中学生。素直にその活動に賛成する生徒ばかりではないのが、現実。何とかイベントを成功させようとする野乃香とそうでない委員とのやり取り。それでも奮闘する野乃香に苦い懐かしさを大人は感じるだろう。

また、2007年に考案され、学校現場では定着してきたビブリオバトルが物語に盛り込まれているのも見逃せられない点である。実際には、学校現場だけでなく、全国大会をはじめ、あちこちの書店でもイベントとして開催されているので、教育的なものではないが、このゲームの資質上、「学校」「生徒」という括りの中で物語を展開させるのが、とても自然な流れのように思える。この作品を大人が読めば、斬新に感じるかもしれない。しかし、登場人物と同じ世代の子どもたちが読むと、そこに当たり前の自分たちの本の世界が繰り広げられ、リアル感を持ちながら、エピソードとしてはあくまでも物語として楽しめる作品である。

そして、やはり本好きにたまらないのが、実際に刊行されている数々の作品名が盛り込まれているところであろう。1編目では、現在の中学生が読んでいる作品。そして2編目では絵本のタイトルが至る所に散りばめられている。それらのタイトルを目にしながら、野乃香たちが手にした「だいじな本」、「だいじな未来」をかつて中学生だった大人たちに味わって欲しい。     (木村綾子 記)
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