京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート『強制不妊』

2019年07月05日 | KIMURAの読書ノート
『強制不妊』
毎日新聞取材班 著 毎日新聞出版 2019年3月
                                              
2018年年明け。東北に住む一人の女性が国を相手取り、強制不妊をさせられたことに対する訴訟を起こしたことで改めて日の目を見ることになった「旧優生保護法」(以下優生保護法)。しかし、その実態を把握している人はなかなかいない。本書は毎日新聞が「旧優生保護法を問う」というキャンペーン報道として展開したものを1冊にまとめた壮絶な記録である。
 
私自身、本書を読み、ただただ啞然とした。戦後、日本は憲法で人権に関して保証されているはずなのに、
・障害を持っているという理由だけで、本人の同意なく強制的に不妊をさせることができたということ。
そしてそれが平成の時代、1996年まで続いていたということ。
しかも、強制不妊手術に関して、同意どころか、何の手術をしたのかということを当事者に知らせていないことも多々あるということ。
更に、それがエスカレートし、何の疾患もないのに、自分に不都合な人物だからという理由で、当事者をだまして手術をさせていたということ。
 

しかし、この法律の恐ろしいところは、もっと別のところにある。法律が制定されたことにより、この法律で行われる強制不妊に対して予算がつく。その予算のためのノルマが課せられ、それにより法律改定をし、より強制不妊の対象者を増やしているということである。つまり、「命」や「健康」を国の予算で操っていたということである。
 
女性が一生に産む子どもの平均数をあらわす合計特殊出生率が、当時過去最低の1.57であることが判明したのは1990年。これ以降、政府は「エンゼルプラン」などを打ち出し少子化対策を行ってきたが、その一方でこの優生保護法が生きていたという矛盾。となると、この少子化対策も国は、予算という名のもとに、子どもを商品として考えているのではないかと穿った目で見てしまわざるを得ない。
 
本書の取材班は、司令塔は東京にしたものの、北海道から九州まですべての本支社に担当デスクを置き、全国に散らばる被害者やこの法律に結果として加担する側となった医療従事者をはじめとする行政職員などへのインタビュー、そして当時の国や自治体からの資料を余すことなく吸い上げることができたことにより、この法律の実態を丸裸にすることを可能とした。
 
それでも、この取材を通して、「我が子に不妊手術を受けさせたい」と訴える現在成人を迎えた障害を持つ子どもの親からの訴えも取り上げている。その親の訴えは切実である。我が子が性的な犯罪に幾度となく巻き込まれそうになったこと。このことに関して我が子を守るためのサポートがないか行政をはじめとする様々な窓口で相談をしてきたが、支援を受ける体制が今の日本ではないということが明らかとなっている。取材班はこう綴っている。
 
「優生保護法下で不妊手術の可否を審査した精神科医らにも取材した。彼らは決まって「家族からの要請があった」と言った。家族が望んだ不妊手術だから医師だけの責任ではない、という弁明にも聞こえたが、(略)優生保護法の時代も、優生保護法が改定された時代も、障害者と家族が置かれた状況はそれほど変わらないのではなないかという現実だった」(p223)
 
弱者を取り巻く環境は「過去の話」ではないのである。

======文責 木村綾子

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