京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

『ビブリア古書堂の事件手帖2』

2014年03月04日 | KIMURAの読書ノート
『ビブリア古書堂の事件手帖2 ~栞子さんと謎めく日常~』(一般書)
三上延 作 メディアワークス 2011年

北鎌倉にある古書店「ビブリア古書堂」の店主栞子さんとそこで働くことになった大輔くんの周囲で起こる古書にまつわる謎を2人が紐解いていくというもの。と言っても大げさな殺人事件が起こるわけではない。古書を通して描かれる複雑になった人間関係を解きほぐしていく。

この作品は古書店が舞台だけあり、それぞれの出来事は本のタイトルがモチーフとなっている。
これは、以前ブレイクした『文学少女』シリーズ(野村美月・作 エンターブレイン)と全く同じ構成である。
こちらのシリーズの最初は2006年に刊行されているので、二番煎じとも二匹目のドジョウとも言えなくない。
いや、ここ最近何某かの名作や古典をモチーフにしたこのような形式の作品が実際増えているような感覚がある。しかし、私は決してこの傾向は嫌ではない。
二番煎じでも二匹目のドジョウでも、多くの作家さんがどんどん出して欲しいとさえ思っている。
なぜなら、現在年間8万点の出版物が刊行している。
そこそこ本に埋もれて過ごしている私でもその数に追いつけるわけがない。
読み残しは年々積もる一方である。更には本と言う物質がこの世に誕生してから、日本国内でも2000年の歴史がある。
2000年前に年間8万点の出版物があったわけではないが、類推するとこの世に出回っている(いた)出版物は天の星よりも多いと思われる。それを網羅するというのは到底無理な話である。
しかし、このような構成だと、1度読むだけで、複数の作品の概要を知ることが可能である。
その中で自分好みの作品に出会えば原作をその後手にすればいいし、そうでなければ、あらましだけその作品を通して知っておくだけでも、心は満たされる。そんな1度で2度以上美味しい形態なのである(少なからず私には)。

さて、話を本作品『ビブリオ古書堂』に戻す。
こちらは、古書店が舞台のためモチーフとなる作品は古書(すでに絶版、稀覯本となっているもの)となっている。
プロローグとエピローグは坂口美千代の『クラクラ日記』、第一話はアントニイ・バージェスの『時計じかけのオレンジ』。第2話は福田定一の『名言随筆集サラリーマン』。第3話は足塚不二雄の『UTOPIA最後の世界大戦』というラインナップ。
しかも、これら本中で扱っている作品は、物語をなぞっているのではなく、作品全体や作者の背景がどのようなものであったか、
また古書としての扱いを自然な流れの中で綴られており、古書に詳しい人なら「そうそう」と膝を打って読めるであろうし、また古書について全く知らない人でも、このような本が世に出回っているのかという好奇心をくすぐられ、と古書に関する入門書として読むことが可能である。

例えば、最初に出版したものと途中で作者が自ら最終章を課した完全版の両方が出回り、読者はそれを知らないでたまたま手にした方で読書感想文を書いた日には、人格を疑われる可能性もある……というような作品や、ブレイクする前に別のペンネームで作品を書いていたものが実はあまり知られてなくて高額な値がついているという話など。
本もただ読むだけなら自分と字面だけの対話となるが、このような背景を知って読むと、作者の生い立ちとその時代に深くもぐりこむことが出来ることで、自分自身の深部を嫌でも引き釣り出される感覚をもってしまう。
これを作中の栞子さんと大輔君が代弁してくれているのが『ビブリオ古書堂』である。

それにしても、このような構成の物語を紡ぎだす作者は本当に本好きなのだろうと思う。
構成は安易にも思えるが、実際名作や古典、他の人が描いた作品を様々な角度で織り込みながら一つのものに仕上げていくのは、簡単ではない。
とりわけ、これらの作品のこぼれたネタというのは、探そうと思って見つかるものではなく、普段から読んでどこともなく転がってくるのをただひたすら拾いあげる作業が必要となる。
それをシリーズとして書き続ける作者たちに私は尊敬の念を抱く。

ちなみに、今回は第2巻を紹介している。これは深い理由はない。ただ手元にあったのが第2巻だったという、それだけである。私自身1巻はまだ未読である。早々に1巻に戻って読みたい。

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