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サイケおやじの生活と音楽

福となせれば

2005-12-02 15:29:24 | Weblog

毎日がこうだったらなぁ……、というのが「災い転じて福となす」でしょう。

これは本当に難しいです。一番良いのは、災いが無いとこなんですけどね……。

ということを、考えさせられてしまうのが、本日の1枚です――

Wynton Kelly (Riverside)

ウイントン・ケリーはモダンジャズのハードバップ期を代表する黒人ピアニストで、これは通称「ウイスパー・ノット」と呼ばれるアルバムです。

録音は1958年、メンバーはウイントン・ケリー(p)、ケニー・バレル(g)、ポール・チェンバース(b)、そしてフィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という、ジャズ者にはお馴染みの面々ですが、そのセッションがすんなり行ったわけではなく、まず予定されていた録音日にドラムスのフィリー・ジョーが現れないというアクシデントが!

そこで急遽、ドラムレスのトリオで録音した4曲が、このアルバムのB面に収められましたが、これが素晴らしい♪

まず「Strong Man」は愁いをおびたテーマがミディアム・テンポで奏でられますが、ケリーのピアノに寄添うギターとベースが何とも言えない温もりと力強さがあり、いきなり惹きこまれます。そしてアドリブ・パートに入っては、泣きを含んだフレーズを何時もながらの強靭なリズムでスイングさせるケリーが素晴らしく、さらに続くケニー・バレルは、最初のワン・フレーズだけで聴き手をグッとさせます。そして繊細でメロディアスなアドリブ・メロディを積み重ねてテーマに返すのですが、この1曲だけで、このセッションの成功は保証されています。とにかく名演!

続く2曲目の「Ill Wind」は、通常スロー・テンポで演じられる暗い曲なんですが、ここでは颯爽としたリズミックなアレンジで展開し、ケニー・バレルが比較的律儀なリズム・ギターを聞かせるので、ケリーとチェンバースが楽しげにスイングしています。そして待ちかねたように自分のソロ・パートに入っては、得意のバレル節が全開♪ 黒人らしからぬ粋なフレーズを出していますが、それが逆に黒っぽいという特徴が良く出た演奏だと思います。

そのあたりは3曲目の「Don't Explain」ではっきりと表れており、哀しみを満ちたテーマ・メロディを正面からじっくりと料理するケリーに対し、ブルースを直に感じさせる黒いフレーズを主体にアドリブを展開するバレルが流石です。そこでケリーは再び登場して、今度はかなりファンキー調のフレーズを聞かせてくれるという、いろいろな思惑が交錯した演奏になっています。

こうして突入するオーラスには、お約束のブルース大会が待っているわけですが、これが黒い! まずチェンバースのベースが真っ黒なペースを設定し、ケリーは得意の弾けるような躍動的フレーズを連発♪ そしてバレルはモタレ気味のリズムギターからソロに転じては、得意のブルース・リックを繰り出して盛り上げます。この人はけっして偉大なテクニシャンではありませんが、この黒くて洒落た雰囲気は、黒人感覚を超越した粋な部分があり、しかしそれは白人ギタリストが真似して出来るものではありません。

さて、こうしてセッションは最良の雰囲気で進みましたが、やはりドラムレスということで、激しいテンポの演奏は残されませんでした。そこで日を改め、今度はフィリー・ジョーを入れての演奏になるのですが、これが……。

つまりA面に収められた演奏は、何故か、期待した以上の出来にはなっていないと、私は感じています。

まず冒頭は、これも哀愁のモダンジャズ・テーマ「Whisper Not」ですが、ミディアム・テンポの所為か否か、ドラムスが邪魔に聴こえてしまいます。もちろん全員が好演なのですが、これが瞬間芸であるジャズの面白く、不思議なところです。

それでも次のアップテンポ曲「Action」では、フィリー・ジョーが面目躍如の頑張りを聴かせてくれるのですが、どこか荒っぽいだけの演奏に終始します。う~ん、不思議だなぁ……。

それはA面ラストの「Dark Eyes」でも同じことで、この素晴らしいメンバーで、お馴染みの哀愁ロシア民謡が取上げられているのですから、もっとグッと来る演奏で然るべきなんですが、どことなく虚しさが漂っていると、私は思います。

ということで、これは不思議なアルバムで、メンバーひとりひとりは好演なのに、何故か燃えないというか、萌えないA面、そしてそれとは対照的に、突発事故で出来上がったB面が素敵な出来栄えというのが、個人的感想です。

実際、ジャズ喫茶ではどちらが多く鳴っているのか分かりませんが、もし、リクエストされるのであれば、B面をオススメしておきます。これは自宅で聴いても、かなりジャズの毒気に当てられる作品ではないでしょうか? まずはB面1曲目の「Strong Man」、これが全てかもしれません。

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