■庶民のファンファーレ c/w 恐怖の頭脳改革
/ Emerson Lake & Palmer (Atlantic / ワーナーパイオニア)
あまりにも凄い傑作を出し続けた挙句、ほとんど煮詰まっていたエマーソン・レイク&パーマー=ELPが1977年に出したシングル盤ですが、もしかしたら今日、このA面曲「庶民のファンファーレ / Fanfare For The Common Man」が、ELPでは一番に知られたヒット曲かもしれません。
もちろん、これはELPのオリジナルではなく、アメリカの作曲家として名高いアーロン・コープランドが1942年書いた有名なメロデイとして、タイトルどおりの荘厳華麗、そして威勢が良く、覚え易いところから、最初は軍歌であったと言われていますが、今となっては様々な催し物の幕開けに使われているので、一度は皆様も、その旋律は耳にした事があろうと思います。
そこでロックの世界でも、ELP以前にプログレ系バンドのスティクスが1972年頃に出したデビューアルバム(?)で演じていますし、ストーンズが1975年の巡業ライプで開演の合図に流していた事も知られているはずです。
しかし、それをあえてELPがやってしまうというあたりに、当時の彼等の苦境を感じてしまうのは、サイケおやじだけではないでしょう。
実はご存じのとおり、この「庶民のファンファーレ / Fanfare For The Common Man」は、LP3枚組の大作ライプ盤「レディース&ジェントルメン」から、ようやく3年ぶりに世に出た久々の新作アルバム「四部作 / Works」の収録曲ながら、それがこれまたLP2枚組であるにもかかわらず、アナログ盤A~C面の各々がキース・エマーソン(key,vo)、グレッグ・レイク(b,g,vo)、そしてカール・パーマー(ds,per) のソロプロジェクト企画であり、3人揃ってELP本隊としては、D面に僅か(?)2曲だけというテイタラク……。
その内のひとつが「庶民のファンファーレ / Fanfare For The Common Man」であった事は言うまでもありませんが、問題はもうひとつの「海賊」も含めて、何か間延びした仕上がりになっていた結果は否定出来ません。
そこで苦し紛れ(?)のシングルカットに際しては、当然ながら9分以上あったトラックを3分弱に短く編集した事も、決して暴挙ではなかったはずで、それは実際、世界中で大ヒットしてしまったのですからっ!?!?
ちなみにELPとアーロン・コープランドの関連については、1972年に出した名盤アルバム「トリロジー」において件の巨匠作曲の「Hoedown」を堂々と演奏し、以降もステージライプの必須演目にしていた時期がありますから、目論見通りに大当たりした「庶民のファンファーレ / Fanfare For The Common Man」が以降のチェンジレパートリーになった事も当然でした。
しかし、サイケおやじが、このシングル盤をゲットしたのは編集バージョンのA面ばかりが目的ではなく、本音はB面に収められていた「恐怖の頭脳改革 / Brain Salad Surgery」でありました。
なにしろ当時の我国では、これが未発表曲だったんですねぇ~~♪
まあ、結論から言えば、本国イギリスでは音楽雑誌の付録ソノシートに入れられて、1973年には出回っていたんですが、その頃の我国の洋楽事情では、そんな僥倖は夢の中の話ですし、なによりも曲タイトルが「恐怖の頭脳改革 / Brain Salad Surgery」、つまり未だ超絶の傑作アルバムとそれが同名であれば、ど~しても聴いてみたくなるのがファンの切なる気持でしょう。
何故ならば、説明不要とは思いますが、1973年に発表された件のLP「恐怖の頭脳改革 / Brain Salad Surgery」には、肝心のアルバムタイトル曲が入っていませんでしたから、これは当時から完全に???
どうやら真相は、曲も演奏も作られながら、全体の流れと密度の中では浮いていたのでオミットされたという説が流布され、確かにブートで聴けた問題のソノシート音源は、全くそのとおりの物足りなさ……。
それでも、こうしてオフィシャル化されたとなれば、プロモーション扱いのオマケ音源よりは数段に優れたものになっているにちがいない!? と思い込むのも、ファン心理です。
ところが、やっぱり、過大な期待は裏切られると言っては失礼かもしれませんが、少なくともサイケおやじを満足させてくれるような仕上がりではなく……。率直に言えば、これはど~したって、没テイクになったのも納得出来るのです。
しかし同時に、こういうものでさえ聴かなければならないほどの切迫感、それほどの存在感が当時のELPにはあったのです。
もちろん、これで見切りをつけられた事も、また、ひとつの現実でした。
そして以降、ELPは完全な迷い道に踏み込み、同年末には「作品第二番 / Works 2」なぁ~んていう、メンバーのソロプロジェクトによるシングル盤オンリーの楽曲や余りテイク等々を寄せ集めたアルバムを出し、当然ながら、ここで問題にした「恐怖の頭脳改革 / Brain Salad Surgery」も入っていたんですから、もはやど~しようもありません……。
ただし救いは、それが比較的安価な1枚物のLPであった事、あるいはシングル盤であった事でしょうか。
さて、実はここまで長々と書いてきた拙文には、もうひとつの意図がありまして、それは最近続々と発売されるベテラン大物ミュージシャンによるベスト盤商売に対する、あれこれです。
それは例えば山下達郎が先日出したCD3枚組のベスト盤にしても、一応はデビュー時から今日までを包括した、発売元レーベルを超越する選曲で、リマスターも施され、しかも初回盤にはデモ音源等々を入れたボーナス盤が付くというのですから、長年のファンならば買わずにはいられないでしょう。
もちろん目当ては、そのボーナスディスクですよ!
しかし、これはサイケおやじだけの気持じゃ~ないと確信するところなんですが、たった(?)それだけで、CD3枚分の耳タコ楽曲にお金を持っていかれる事態は、なにか不条理なんですよねぇ……。
ところが同時に、その「たったそれだけ」ってのが、大いに無視出来ないのですから、それはファンの宿業なんでしょう。
不肖サイケおやじも、全くそのひとりとして観念させられたんですが、似たような事態は今後予定されているストーンズ、あるいはユーミンのベスト盤にも言える事で、こんな状況が今後、2~3年毎に繰り返されるとしたら、それこそ地獄へ道連れですよ。
ちったぁ~、逆の立場も考えて欲しいもんですっ!
そりゃ~、確かに、創作活動に携わる芸能人が長年の間に新作を出し難い状況になるのは、誰しも避ける事が出来ない道でしょう。また、ファンが新作を待ち望む心境だって、憧れの対象が大きいほどに、その反動も比例します。
そんな事は本人達が一番分かっているはずですから、現実的にファンが絶対に口出しを許されない部分だとは思います。
それでも、高額な商品を売る目的で、僅かばかりの美味しそうなエサと言っては語弊もありますが、ど~せなら、それを未発表曲集として纏めて発売してくれたほうがファンは喜んでお金を払うと思うんですけどねぇ……。
ということで、リアルタイムでは疑問符が多かったELPの「ワークス」関連音源も、今となっては、却って潔いと感じています。
う~ん、「庶民のファンファーレ / Fanfare For The Common Man」の爽快さは、そんな未来も見越していたんでしょうか!?
恐るべしっ!