最近、テレビで渡哲也が缶コーヒーのCM、やってますね。部下のバカ女を連れて、詫びに行くやつですが……。
常日頃から本音を言えない苦しさに押さえ込まれている私にとっては、なんか感情移入してしまいます。
しかし缶コーヒーは買いません。どうせなら、そういう時こそ、本物を飲みたいから……。
失礼しました。ということで、本日はホッとする1枚を――
■Seldon Powell (Roost)
私がジャズ喫茶に通い始めた高校生の頃は、ジョン・コルトレーン(ts,ss) やアルバート・アイラー(as,ts)、フレディ・ハバード(tp) やリー・モーガン(tp)、もちろんマイルス・デイビスやビル・エバンス……等々が大音量の鳴りまくりでしたから、それが心地良い疲労感でもあって、ジャズを聴く喜びに目覚める日々でした。
そしてさらに快感なのは、ガイド本には紹介されないシブイ演奏者に出会うこと! 本日ご紹介の黒人テナーサックス奏者=セルダン・パウエルも、そのひとりでした。
演奏スタイルとしては所謂モダンスイング、中間派と呼ばれるものなんでしょうが、黒人らしからぬスマートな感性とグルーヴィな歌心には、ジャンルを超越した魅力があります。
実際、1970年代にはファンキーなソウル系の演奏まで含んだリーダー盤を作っていますし、スタジオの仕事でもソウルやロックを問わず、膨大なセッションに参加しているのは、その証かと思います。
で、このアルバムは1950年代中頃に吹き込まれたらしく、その演奏はスバリ、安らぎと楽しさに満ちていますから、これがジャズ喫茶全盛期のゴリゴリした雰囲気の中へ流れてくると、店内がファ~っ和んだ空気に包まれたものです。
メンバーはセルダン・パウエル(ts) 以下、ジミー・ノッティンクガム(tp)、ボブ・アレキサンダー(tb)、トニー・アレス(p)、ビリー・バウアー(g)、フレディ・グリーン(g)、アーノルド・フィシュキン(b)、ドン・ラモンド(ds) ……等々とされています――
A-1 Go First Class
フレディ・グリーンのリズムギターを核にした弾むようなリズム隊の4ビートに乗せて、セルダン・パウエルが軽快にドライヴしまくるアップテンポの快演です♪ バックを彩るホーンの合奏もゴキゲンですねぇ~♪
セルダン・パウエルのアドリブは嫌味の無い音色で全てが「歌」というフレーズの連続ですから、この1曲で完全に虜になる楽しい仕上がりです。
A-2 Why Was I Born
粘っこい雰囲気と「泣き」が融合した歌物バラードの傑作演奏! もちろんセルダン・パウエルのテナーサックスが主役で、ジワジワと雰囲気が盛り上がります
ただしリズム隊に若干の違和感が……。とは言え、素晴らしいコードとオカズの妙技を聞かせるビリー・バウアーが、流石ですねっ♪
A-3 Love Is Just Around The Corner
これは楽しいモダンスイングで、フレディ・グリーンの参加ゆえに演奏は完全にベイシー調なのが微笑ましいところ♪ バックのホーンアンサンブルもゴキゲンです。
セルダン・パウエルは原曲メロディの巧みな変奏からレスター・ヤング系の流麗なアドリブを披露しています。もちろん歌心は満点!
A-4 Someone To Watch Over Me
これも「泣き」が入った素敵なメロディのスタンダード曲♪ ここではミディアムテンポで演奏されていきます。相変わらずツボを押えたホーンアンサンブルのアレンジが粋ですねぇ~♪
セルダン・パウエルのテナーサックスはキャバレーモードにギリギリまで接近していますが、それを潔しとする歌心には言葉も無いほどです。
B-1 Count Fleet
これまたフレディ・グリーンのリズムギターが冴え渡る、楽しいアップテンポの演奏で、A面では聴けなかったトロンボーンやトランペットのソロも登場しますが、やはり主役はセルダン・パウエル!
全く気分は最高というゴキゲンなノリと歌心には、脱帽です。
後半のアンサンブルは白人ウエストコーストジャズのような雰囲気も♪
B-2 Autumn Nocturne
これはお馴染みの曲、有名なメロディなので、どうしてもキャバレーモードになってしまうのですが、それも良いじゃないかっ! という仕上がりです。
ミディアムスローでひたすらにメロディを綴るセルダン・パウエルの真摯な姿勢が……。しかし正直、ややダレた雰囲気もありますねぇ……。
B-3 Swingsville Ohio
一転して溌剌とした演奏で、哀愁が滲むテーマメロディはセルダン・パウエルの作曲とされています。しかもアドリブの最初の部分が驚異的にアグレッシブで、ちょっと驚愕! その後に続く安らぎ優先フレーズとの落差が大きすぎますねっ!
そしてここでのハイライトがトニー・アレスのピアノソロだと思うのですが、いかがなもんでしょうか? 大ハッスルしたトランペットにオトボケのトロンボーンの対比も、狙ったんでしょうねぇ♪
B-4 Summertime
オーラスは、このアルバム中で一番有名なスタンダード曲ですが、ちょいと変化球のアレンジには??? しかしお馴染みのメロディが出てくると、流石にホッとします。
そしてビリー・バウアーのギターが素晴らしい味わいですねぇ~♪
肝心のセルダン・パウエルは、やや古臭い節回しのアドリブに積極的なシーツ・オブ・サウンド(?)まで入れた妙な構成で、個人的には??? しかし豪勢なホーンアンサンブルには、それがジャストミートの快演だと思います。
ということで、快適なA面にシブイB面というアルバム構成もニクイ1枚です。極端に言えばド頭の「Go First Class」だけでも全然OK!
それとリズム隊の主力はレニー・トリスターノ派の面々ですが、それがここではクールよりも踏み込んだ、如何にもジャズっぽいビートを出していて、それはフレディ・グリーンの存在が大きいと感じるのは、私だけでしょうか……?
セルダン・パウエルはカウント・ベイシー楽団にも参加した楽歴がありますから、強いビートの演奏は得意だったかもしれません。しかし独特の和みのスイング感は唯一無二の個性だと思います。
そして個人的には「ウイズ・ストリングス」なんていう企画も聞きたかったのですが……。