わからん事を言う奴が、この世には確かにいるんですが、相手にしないのが一番とは思いつつ、どうしても気になってしまうのが、私のイケナイところです。
そんな奴を凹ましても、どうにもならないんですけどねぇ。
ということで、本日は名盤です――
■Eclypso / Tommy Flanagan (enja)
1970年代ジャズの主流はフュージョンでした。これは否定出来ないところだと思います。
しかし、だからこそ、その中で輝いてしまった正統派4ビート盤もありました。例えばこのアルバムあたりは、その代表じゃないでしょうか。
録音は1977年2月4日という説が有力ですが、これはちょっとあやふやとされていて、我国に入荷したのは同年末頃だったと思います。メンバーはトミー・フラナガン(p)、ジョージ・ムラーツ(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という、もしかして!? というトリオです。
もちろんここで「もしかして!?」と書いたのは、トミフラ&エルビンと言えば、言わずもがなの「オーバーシーズ」という名盤連想があるからです。
そして実際、このアルバムでも演目に「それ」が入っているのですから、たまりません♪ しかも真正面からガチンコをやっていたのです――
A-1 Oleo
ソニー・ロリンズ(ts) が書いたハードバップの代表曲で、それ以前のビバップ色が大切にされた幾何学的なテーマメロディがモダンジャズそのものという定番です。
ここでの演奏はトミー・フラナガンの歯切れの良いピアノとエルビン・ジョーンズの気持ちの良いブラシ、そして基本に忠実なジョージ・ムラーツのベースが三位一体となった爽快なテーマのアンサンブルが、まず見事です。ビートの芯が実にしっかりと感じられます。
それはアドリブパートでも変わりなく、否、ますます豪快なアップテンポのハードバップが展開されていくのです。
リアルタイムでは、あぁ、この1曲で、このアルバムは間違いない! と感動するほどでした。特にエルビン・ジョーンズの凄まドラムソロはブラシとバスドラのコンビネーションが最高です♪
A-2 Denzil's Best
これが必ずやジャズ者の琴線に触れてしまう、「泣き」が入った名曲です。まずトミー・フラナガンが絶妙のイントロ♪ 続くテーマメロディはジョージ・ムラーツがリードしますが、このちょっと音程がアヤシイとろが、逆にグッとくる魔法になっています。
そして流れるようにアドリブに入ってくトミー・フラナガンの背後では、エルビン・ジョーンズが恐いドラミング! その隙間を埋めていくジョージ・ムラーツのベースワークも良い感じです。
う~ん、それにしてもトミー・フラナガンは良いアドリブメロディしか弾きませんねぇ、このセッションでは! 特にこの曲なんか、とても即興とは思えない美メロが出まくっています。
その流れを断ち切らないジョージ・ムラーツのベースソロも楽しく、快適なグルーヴをポリリズムで敲き出すエルビン・ジョーズは、もはや自分で楽しんでいる境地なんでしょうか♪
ジャズが好きで良かった♪ と心底、思えてくるのでした。
A-3 A Blue Time
ゆったりしたテンポの演奏なんですが、これまた実に良い雰囲気が存分に味わえる名曲・名演になっています。作曲はタッド・ダメロン♪
ですからその繊細な曲調を表現していくトミー・フラナガンの妙技が冴えまくり♪ もう、なんでこんなに良いメロディが! という瞬間ばっかりです。
そして見事に絡んで隙間を埋めるジョージ・ムラーツの感性も素晴らしいと思いますねぇ~。ほとんどベース中心に聴いても楽しめる演奏で、そうなるとエルビン・ジョーンズのシブイ部分にも感じ入ってしまうのです。
冒頭からここまでの3連発で、私は完全降伏♪
A-4 Relaxin' At Camarillo
と至福の一時に浸っていれば、A面の〆が例の「オーバーシーズ」からの再演ですから、ニクイ構成です。
もちろんここでも凄い快演で、初っ端からテンションの高いトリオ全体のノリが強烈です。特にトミー・フラナガンの力感溢れるピアノスタイルは、老いて益々盛ん! 無闇に激してはいないものの、グッと意気地を見せた任侠の世界だと思います。
しかしジョージ・ムラーツのベースソロが烈しく燃え、エルビン・ジョーンズは唸りも芸の内という、白熱のブラシを炸裂させます。バスドラとのコンビネーションも烈しいですねぇ~~~! 最高です♪
B-1 Cup Bearers
モダンジャズの隠れ名曲をいろいろと書いているトム・マッキントッシュの、これもそのひとつです。なんとも優雅な雰囲気なテーマメロディが、この強力トリオによって痛快なハードバップになっているあたりが、最高ですねぇ~~♪
トミー・フラナガンのアドリブからは、ジョン・コルトレーンと共演した、あの「ジャイアント・ステップス(Atrantic)」と同じ覇気が感じられますし、コルトレーンと言えばエルビン・ジョーンズの爆発的なドラミングが、ここでも豪放に暴れています。
B-2 Eclypso
これまた「オーバーシーズ」からの再演ながら、トミー・フラナガンの気合は些かも劣っていません。それどころかジョージ・ムラーツの参加が1970年代型のグルーヴに繋がったようで、エルビン・ジョーンズも大ハッスル! かなりヘヴィなラテンビートを叩いています。
もちろんアドリブパートではトリオ全員がグルーヴィな4ビートに意思統一! トミー・フラナガンの歌心も全開ならば、ジョージ・ムラーツのウォーキングベースも痛快です。そしてエルビン・ジョーンズ! あんたは何時だって、凄いぜっ!
B-3 Confiramtion
オーラスは正統派ビバップに敢然と挑戦! これは当時全盛だったフュージョンへ対抗意識がミエミエという、当にこのアルバムの締め括りには相応しい演目でしょう。
そして演奏は全くの正統派4ビートで、奇を衒ったようなところは微塵もありません。
ということで、これはその頃、ジャズ喫茶で大きな顔をしていたチック・コリアやハービー・ハンコックあたりの電気系キーボート奏者を真っ青にさせるほど、連日連夜の鳴りまくりでした♪
正直に言えば、トミー・フラナガンの当時のイメージは「歌伴の人」とか、「昔の名前で出ています」でした。それがこのアルバムによって完全復活どころか、前にも増して人気ピアニストになったようです。
やや荒っぽい部分がある演奏が、それまでの繊細なイメージを覆したのかもしれませんし、なによりも16ビートが当たり前の世界に4ビートの良さを復権させた功績は流石だと思います。
何時聴いても、惹きつけられる名盤だと思います。